新雪とともに日が昇る｜リアクション

新雪とともに日が昇る

☆また明日

　始業式日の帰り昇降口で、八神修は帰ろうとする七夜あおいの姿を見つけた。
「あおい、途中まで一緒に帰らないか」
「修くん」
　寝子高から桜花寮までの距離は短い。
　一緒に歩ける貴重な時間を一秒も無駄にすまいと、修は話しかける。
「正月休みは何してた？」
「帰省してたよ。ちょっと前に戻ってからは宿題に追われてたの」
「俺に声をかけてくれればよかったのに」
「そうしようかとも思ったけど、いつも頼ってばかりじゃいけないかなって」
　あおいの微笑みを、修はじっと見つめながら思う。
（確かにニャインしてたし会ったりもしたけど、挨拶する日々が戻ってきたんだなあ）
「初詣一緒に行けて嬉しかったよ」
　修は正月の話をした。
「ボート、楽しかった。暖かくなったらまた乗りたいかも」
　あおいが頷いてそう言い、修も一緒に見た海を思い出した。
　初詣の後、修が運転するプレジャーボートで二人は寝子島の北を回ったのだ。

　頭に冷たさを感じ、気がつくと雪がちらちらと降ってきていた。
　傘を出そうかと思ったが、修はなんだかこの雪に特別なものを感じた。
（あおいは俺の気持ちを知ってる。俺は「待つ」と言ってて、あおいも真剣に考えてくれてる）
　この雪は彼女の心の背中を押すんじゃないだろうか。
　そんな気がしてならなかった。
「いつも修君は私の事考えてくれてるね……甘えちゃって良いのかな」
　はたして、あおいは口を開いた。
「……ああ」
　今多くを語れば、せっかくのあおいの精一杯の言葉を聞き逃すことになるかもしれない。
　修はあおいの言葉を待った。
「いつまでもずるずると引き伸ばしちゃいけないと思うけど、まだどう答えて良いのか……」
　真剣な表情であおいは言った。
「待つよ……」　
（俺は、あおいの特別になりたい。なるべく早くいい返事が欲しいけど）
　修は思いを込めてあおいを見つめた。
「うん、答え……私も、早く、うん。あぁー！」
　あおいは、舞い落ちる雪に向かって急に叫ぶ。
「ど、どうした？　あおい」
　あまり見た覚えのないあおいの様子に、修は驚く。
　あおいは、ぼそりとつぶやくように答えた。
「答え、出したいなぁ」
（これは……いい返事なのだろうか？）
　分かれ道が近づいてきていた。
「わかった。正直に話してくれてありがとう」
　少しの不安と共に、修の心はぽかぽかしていた。
　それが偽りのない彼女の気持ちなら、感謝と共に受け止めよう。

「それじゃ、また明日」
「うん。気をつけてね」
　心のつながりを感じながら、修は分かれ道であおいを見送った。

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