新雪とともに日が昇る｜リアクション

新雪とともに日が昇る

☆二人の受験勉強

「いよいよ大学受験ロードも最終盤だね」
　初瀬川理緒が言った。
「そうだね。理緒ちゃん頑張ったよね」
　恋人の佐和崎紗月が答える。
　センター試験まであと2週間ほど。二人の鞄にはお揃いの合格祈願のお守りが揺れていた。

　紗月は寮住まいではないが、始業式を終えた二人はそのまま桜花寮へ向かう。
　最後の追い込み、ということで理緒の部屋で一緒に受験勉強することにしたのだ。
「思えば長い道のりだった。元々受験なんてするつもりじゃなかったのに」
　女子高生グラビアアイドルとして活躍し、高校を出たらそのままグラドルとして行けるところまで行くつもりで、将来のことなど何にも考えてなかった。
　勉強漬けの小学生時代を送ったのだが、中学受験に失敗したのを機にファッションに目覚め、成績は常に超低空飛行で得意科目はなし、苦手科目は全部というありさまだった。
　しかし所属事務所が成績の悪さを面白がったのか、偏差値30からの大学受験企画を立案したことから、理緒の運命が変わり始めた。
　グラドルの仕事に加えて受験勉強、予備校にも通うという怒涛の毎日。
　テスト期間中の記憶がほとんどなかった時には、もうだめだとあきらめかけた。
　（それが今では偏差値60。早稲畑や軽王は無理でも、明示や楽習院なら学部によっては合格圏内、というところまで爆上げしたわね）
　志望校である木天蓼大学芸術学部写真学科の偏差値は50。余裕で合格圏内だ。
（いやーあたしって実は天才だったかも？　あと1年あれば東大なんて楽勝だったかもよ？）
　とか調子に乗りそうになるが、さすがにここはグッと抑えた。
　短期間で木天蓼大学なら合格可能なレベルまでに成績が急上昇したのは、紗月のサポートのおかげだと思うから。
　最後の追い込みで合格して、紗月の応援に応えたい。

　ちなみに紗月も同じ木天蓼大学経済学部で、Ａ判定だった。
　勉強の合間に理緒の顔を見ながら、紗月は思う。
（普段は良くも悪くも大胆不敵な理緒ちゃんが慎重すぎるくらい慎重になってる）
　もちろん入試が近いというせいもあるけれど。
　紗月はクリスマスに理緒が言ったことを思い出す。
『……信じられないの。自分のことが。試験当日にボロが出ちゃうんじゃないとか……考えちゃって、不安が頭の中を渦巻いちゃって……』
　あの時、理緒ちゃんが珍しく弱音を吐いて涙まで流して自分に縋りついた。
　余りのことに泣き虫であるはずの紗月が泣けないほど衝撃を受けて、ただ肩を貸すことしかできなかった。
　理緒ちゃんのためなら何でもしてあげたい、けど。
　こうやって一緒に勉強する以外、自分に何ができるだろうか。

　気が付いたらもう8時近くだった。
「今日はこのへんで終わりにしようか。送るよ」
　けっこう集中して勉強できたと思う。
　
　外に出ると、雪はもう止んでいたがうっすらと道路に積もっていた。
　二人で足元に気を付けながら夜道を歩く。
「ここで滑ったらシャレにならないもんね」
　そう言った理緒は、紗月のほうに向きなおった。
「ここまで来たら、撮影の時と同じで、開き直ってぶつかってみようか」
　そして、パッと満開の笑顔を見せたのだった。
「理緒ちゃん……そうだね、きっと大丈夫」
　眩しい笑顔に見とれつつ紗月は思う。
（理緒ちゃんは私を心配させたくなくて、無理してるのかも？）
　心の中では不安でないはずがないのだ。
「……でも、不安になったらそう言ってね？　そばにいることしかできないけど」
「うん……それじゃまた明日」
　紗月の家の前で、二人は手を振って別れた。