新雪とともに日が昇る｜リアクション

新雪とともに日が昇る

☆帰り道

　始業式とＨＲを終え、英二は真っ直ぐ桜花寮にへ向かう。
　と、前方に見慣れたアホ毛が揺れているのを発見して、ちょっと嬉しくなった。
「あれ、野々さん」
「あっ、英二くん」
　同じ桜花寮の野々ののこだ。
（冬休み中もそれなりに会ってるけど、久しぶりに制服姿の野々さんを見ると何だかすごく新鮮な気分がする）
　そう思いながら英二は話しかけた。
「久しぶりの学校、どうだった？」
「んー、みんな元気そうだったよ。そうだ、今年もかるた大会あるんだね、楽しみ！」
「ああ、歴史的人物の仮装をするとか言ってたね。野々さんはやりたい役とか考えてる？」
「んー、レキシ的ジンブツとか急に思いつかないけど、面白そう」
　ののこの明るい笑顔に惹かれつつ、英二は思い切って誘ってみた。
「そうだね……もしよかったら、一緒のチームにならない？」
「いいね！　やろう！」
　いろいろ楽しく会話しながら、二人は帰寮した。

（休みが明けるって、いつもの日常に戻る感じだな）
　御剣刀は、下校しながらぼんやりと考える。
　始業式の日も忘れかけていたが、守りたいフツウを確かめるためにも学校へ行った。
（先生もクラスメートも変わらず、アホの子（ののこ）も普通に元気だった。神魂が関わるトラブルもなかった、よかったよかった）
　昨日と同じようにフツウに今日も過ごせたが、明日も同じように過ごせるだろうか？
　そんなことは落神や神魂に関わらなければ考えもしないと思う。
（でも関わったら、昨日と同じ今日が、今日と同じ明日が無条件に訪れるとは思えなくなった）
　１年生の時から、フツウを守るため刀は戦い続けてきた。
　だから新しい節目を迎えられることに安堵しつつ、また次も迎えられるよう頑張ろうと初心に返るつもりで気合を入れる。

　旧市街の自宅に戻った刀は、ささっと着替えて散歩の準備をした。
　そして部屋にある70cmくらいのビスクドールに声をかける。
「おーし、ルヴィアは今日も綺麗だな、一緒に見回り行くか！」
　ルヴィアは、赤黒の色彩と、半袖デザインのゴシックロリータの衣装に身を包んでいる宝石人形だ。
　かつて神魂が宿り、人間と同じように振る舞うことができるようになったが、今はもう答えを返したり勝手に歩いたりはしない。
　事件が終わった後、刀は人形を個人で引き取りたいと極めて熱心に申し出て今に至る。

　刀はルヴィアを腕に座らせるように抱えて、見回りを兼ねた散歩に連れ出す。
（何かが起きた時、俺だけでどうこう出来るわけじゃないけど、それでも動かないと何も変わらないからな）
　その為にも前に進もう、と刀は思う。
（何かあるならその後に考えよう）
　そんな風にちょっと気合を入れて、刀はルヴィアと一緒に玄関をくぐった。

このページにイラストを設定する