新雪とともに日が昇る｜リアクション

新雪とともに日が昇る

☆始業式

　寝子高始業式。
　壇上では雨宮草太郎校長先生が、例によってダラダラと無駄に長い話をしている。
「シトラス・ガムダンは言いました──変わらないものなどない、と」

（鬱陶しいなあ）
　琳子は顔に出さず内心思う。
　確かに変わらないものなどないのかもしれない。
　これを聞くのもあとわずか、卒業式で最後になるんだなと思うと少し感傷的に……ならない。
（変わるならまず校長先生の話からにしてほしいわ）
　就職したら、信用金庫でも支店長の長い話を聞かされたりするのだろうか……。
　いくらなんでもそんなことはないと思いたい。

（毎回思うけど、これって拷問じゃない？）
　楡宮遠海はため息をつく。
（また校長先生の無駄に長時間のおしゃべりかあ。シトラス・ガムダンとかいう偉い人の話をダラダラ長々と話して、本人はそれが楽しいのだろうけれども、聞かされる方はたまったものじゃないよね）
　バタッ！
　物音に周囲を見ると、気分を悪くして倒れたらしい子がいた。慌てて先生が駆け寄っている。
　よく見れば座り込んでいる子も何人かいた。
（私も倒れちゃうのかな？　お腹空いた……）
　気をしっかり持つべく、遠海は考える。
（そういえば今日は学食が開くんだっけ。日替わり定食は何かな？）
　そんなことばかり考えて、ひたすら長ったらしい校長先生の話を凌ぐのだった。

（シャレにならんぐらい長すぎるって）
　羽生碧南も毎度のシトラス・ガムダン話に絶望する。
　体力のある碧南は倒れて保健室に逃げることもできない。
　もっとも、途中で早々に乙女ゲーの妄想に逃げることにした。
　おかげで妄想がはかどるが、はかどりすぎた。
　始業式が終わってばったり憧れの先輩に出会うシチュエーション……
　振り向いた想像の中の先輩がなぜかワカメ頭の彼の顔に。
「……あっ……」
　危うく変な声を出しかけて、慌てて周囲を見回した。
　幸いこちらに注目している人はいないようで、ほっとする。

（一年はあっという間だったな）
　水上桜は感慨にふける。
（今日から1年最後の3学期が始まるのね）
　去年の今ごろは高校受験で色々と胃の痛む思いをした。
　ただでさえ公民が苦手科目で、それで高校入試失敗したらどうしようとか色々と気に病んでいた。
（幸いにして、合格し、今はこうして寝子高の制服を着られる身分となったけど。受験番号「１９４」が「逝くよ」にならなくてよかった……）
　なんてことを、長ったらしい校長先生のシトラス・ガムダン話の退屈さを紛らすために考えていた。

　始業式が終わり、琳子は３年５組の教室へ戻る。
　窓際に彼女の席がある。
　外を見ると、ひらひらと雪が舞っていた。
（雪の日は好きじゃない）
　雨の方がまだましだ、と思う。
　積もった雪が解け残るのを見ると、過ぎたことへの未練があるように思えて。
　