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\ オーバータイム!/
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心層深淵劇場
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木馬は唄う。彼の瞳が生きたそれであったなら雫をこぼしただろう。巨人が鉄の盾を引き裂くような軋みは紛れもなく木馬自身の嘆きに他ならない。
オレンジのネオンを明滅させ、木馬は今もって美の顕現たらんと努めている。安っぽく塗りたくられた塗料もひび割れ艶を失くし、各所にあしらわれた精緻なレリーフは黒ずみ曇っている。彼は色褪せ疲弊していた。
しかし木馬は気付かない。回り続ける。それのみが彼に許された自己表現であったから。いかに空回りとて他にどうせよと言うのか。
『<僕/私>はいるよ。ここにいるよ。待っているんだ。ずうっと<僕/私>は待っている』
声に主体は無く幾重にも重なって聞こえた。言うなれば集合体だ。彼とは表せど性があるわけでなし、木馬とは総体の一側面に過ぎない。
彼はここへ遺棄された。忘れ去られ、今では顧みる者もない。少なくとも彼自身はそう思い込んでいるようだ。
彼は
花風 冴来
を認識しないのだ。
(気づいているよ)
木馬にもたれ、もう何度目かのため息をつく。この場に足を踏み入れてからの無為な時を嘆いたのではない。木馬の哀しみへ心を寄せずにいられないからだ。
『<僕/私>はここにいる。待っているから。大好きだから』
(知ってる)
『気が付いて。待っているから。いつまでも』
(分かってる)
木馬の蜘蛛の巣めいて走るひびを指先でなぞる。
(でも私は、あなたの待ち人じゃない。可哀想に、いつもこんなふうに唄うのね)
冴来の存在が彼の慰めにはならない。彼が待つのは冴来ではないから。
木馬を離れ、彼を巡る。彼は広いから、冴来の脚では少し大変だ。けれど退屈はしなかった。
小振りながらも迫力あるコースター。おどろおどろしくもこじゃれた西洋風お化け屋敷。回転を続ける観覧車。ほかにも数え切れないほどに多種多様なアトラクションたち。それらの全てを冴来は巡り、手を触れ撫でてゆく。
彼は多彩だ。しかし古い。移ろう時が流行を駆逐し新たな流行を呼び込む。流れは常に早い。
彼の持ち主は流れを乗りこなそうと腐心しただろう。しかし資金繰りに失敗したか、あるいは冴来の想像が及ばぬ事情で断念したのか。いずれにせよ彼へ注がれる愛情は断たれてしまった。
たゆたう過去へ思いを巡らせかけ、冴来は肩をすくめた。遺棄された経緯など些末なものだ。この世にタイム・マシンは無いのだから。
冴来がいくら彼を見て周ろうと、人影の一つもありはしない。かつて訪れた子らも大人たちも全て、彼を忘れてしまった。
(人の心は脆いから。儚いから。忘れてしまうのよ。なんて不誠実。かわいそうに)
思わず想いが口から漏れ出した。
「いっそ……諦めてしまえば、楽になれるのに。全て忘れてしまえば、それで……」
慰めも一方通行に過ぎない。そんな虚ろな言葉に意味はあるだろうか?
しかし冴来の憂いに反して、ネオンは明滅を早めた。
回る。回る。メリーゴーラウンドは回る。
木馬は彩りと艶を取り戻し、朽ちたレリーフが見る間に修復され輝きを増してゆく。
『気づいていたよ。知っていたよ』
単一に過ぎなかったネオンが虹色に瞬く。空が、地が色づいてゆく。
『でも、見ないふりをしていた。だって<僕/私>は、君が探しているものではないから』
ああ、そうか。冴来は肩をすくめた。一方的な慰めとばかり思っていたら、存外通じ合うらしい。
『分かっているんだ。何もかもが過去なんだ。取り戻すことなんてできない。でも』
(……でも?)
『忘れたくないんだ』
冴来はかぶりを振り口元を緩め、にわかに昔日を取り戻した園を静かに流し見る。
彼は確かな意思を持ち稼働している。自ら瞬き、動かし、回るのだ。
しかしながらむしろ、止まることが困難とも言える。それが全てにして唯一彼に許された営みであったから。
『忘れたくはないんだ。そして<僕/私>は、君にも忘れてほしくない』
(……私にも?)
ざわめいた。多重の声が纏う層が厚みを増す。数十人もの少年少女が我先にと叫ぶかのよう。冴来は微笑ましく目尻を下げた。
『君もまた<僕/私>の求めている人ではなかった。けれどそれもいい。君のように、自分が独りぼっちだと思ってしまう誰かへ、何かが届くのならそれもいい』
回る。回る。メリーゴーラウンドは回る。
他の誰のためでもなく、冴来ただ一人のために。
(そう。そうだった。そうだよね)
冴来を苛む全てを理解できる者など、冴来以外にありはしない。理解は示せど真の理解には至らない。
それでも互いを理解せんと歩み寄る。人と人の営みとは常にそうしたものだろう。限りなく近づきたいと願わずにいられない、例え叶わぬとしても。それが愛おしいということだろう。
(知ってたはずなのにね。分かってたはずなのにね)
世界は決して優しくないが、少なくとも冴来の心は誰かを大切に想う力を与えられている。利己的であれ独善的であれ、自己犠牲的であれ、愛おしさを自覚することは一種の才能だ。決して目覚めぬ者もいる。
冴来はそれを知っている。
彼もまた。
(それこそが、私たちの幸福。そうなんだね……)
慰めは一方的ではなかった。冴来は彼に、彼は冴来に寄り添っていた。多分に相互的だった。求む者とは違えど確かに、愛おしく。
『唄おうか』
スピーカーから流れ出す、ひび割れかすれた讃美歌。
「踊りましょう」
透きとおる声とリズムに乗せ、冴来は木馬と踊る。
痛くて。苦しくて。寂しくて、悲しくて。
辛くないなんて言えないけれど。
(それでも私たちは、幸せだ)
世界は驚くほどに未完成だ。足りない物が多すぎる。慌ただしくて忙しくて、困難も苦痛も満ち満ちている。
だから、他者が在る。完璧でないからこそ補い合う。
そうして世界はぴたりと嵌まっている。
メリーゴーラウンドは回る。回り続ける。
冴来は。
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あとがき
担当マスター:
網 透介
ファンレターはマスターページから!
今回もお待たせしてしまいました。大変申し訳ありません。
心層深淵劇場、いかがだったでしょうか。
心の世界というともっとこう、暗くておどろおどろしい物を想像していたりしました。
でもこうして皆さんの美しい心をこれでもかと表現したアクションに触れたことで、僕の心までもすっきり晴れやかです。
執筆にも力がこもりました。力み過ぎて若干破れてしまったくらいです。何がとは申しませんが。
それでは、また次回に。
網でした。
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
網 透介
シナリオタイプ(らっポ)
シルバーシナリオ(150)
グループ参加
2人まで
シナリオジャンル
オールジャンル
定員
5人
参加キャラクター数
5人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2020年06月29日
参加申し込みの期限
2020年07月06日 11時00分
アクション投稿の期限
2020年07月06日 11時00分
参加キャラクター一覧
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