古今東西スーパーレキシ的ジンブツかるた大戦｜リアクション

古今東西スーパーレキシ的ジンブツかるた大戦

　今日は冬らしい晴天だったが、一月のグラウンドはさすがに寒い。串田美弥子は、露出の多い人魚姫の恰好をした初瀬川理緒のことを心配する。
「理緒ちゃん、寒くない？」
「ちょっとね……でも、なんだか試されてる気もするし」
　彼女はグラビアアイドルの仕事で、雪の積もったスキー場でビキニになったこともある。その時のことを思えば気合で乗り切れるだろう。
「四の五の言わず、気合で行くぞー！」
　そんな理緒のことを、佐和崎紗月は優しく見守っている。彼女の恰好は、可憐な白雪姫だ。
「ドレスだからちょっと動きにくいかな」
　機動力のなさは、試合前に札の位置を暗記することでカバーするつもりだ。

　わたの原　漕ぎ出でて見れば　久方の
　雲居にまがふ　沖つ白波

　紗月が心がけるのは、まず慌てずに冷静に対応すること。
（間違えやすい札ね……いや、片方がさっき読まれたから、もう迷わなくていいはず）
　さっきお手付きがあったばかり。他の選手たちが警戒してとっさに動けない中、紗月はドレスの裾をつまんで札に駆け寄り、両手で札に触れた。
「畳サイズの札を取るのはちょっと不安だったけど。意外となんとかなるものね」

　一方、理緒は自分の仮装の致命的な弱点に気づいていた。
「この足でどうやって移動しろっていうの？」
　そう、人魚姫の下半身は魚なので、理緒の足は尾びれになっているのだ。一歩、いや一尾動いてみるが……
「もー、これじゃほとんど動けないじゃん！」
　本人は必死だが、はたから見るとどうしてもコミカルな動きに見える。懸命に運動しているおかげで、さっきまで寒かったのが暑ささえ感じてきた。
　
　春の夜の　夢ばかりなる　手枕に
　かひなく立たむ　名こそ惜しけれ

　知っている歌が読み上げられたので、ぴょんぴょんと札のもとに向かう理緒。ところが、焦ったのか派手につんのめって転んでしまう。
「あ痛たた……」
「大丈夫、理緒ちゃん？」
　心配して駆け寄った紗月は、転んだとき前に伸ばした理緒の両手が、札にわずかに触れているのに気付いた。審判の旗は理緒に向けられている。転んだおかげで、わずかな差で理緒が先に触れたと判定されたのだ。
「理緒ちゃんしっかりして。一枚取れたよ！」
「……あれ、ほんとだ。やった、ラッキー！」