10年前の私から10年後の私へ｜リアクション

10年前の私から10年後の私へ

●げんきでやっていますか？

　年末ということで桜花寮から実家に帰省中の小山内海は、自分の部屋の本棚を整理をしていた。
　クロッキーが得意ということもあり、本は絵画関係や絵本といった絵に関するものが多い。
　いろんな本が増えてきたと思いつつ整理していると、本と本の間に何かがあるのを見つけた。
（何だろう？）
　本の隙間に挟まっている何かを取り出す。なかなか取り出せなかったので、本を出してから手にした。
（これ……封筒？）
　なんでこんなところに封筒が……というのが不思議だった。
　封筒の表側には、可愛い女の子らしい字で『10ねんごのわたしへ』と書いてあった。
（10ねんごのわたしにお手紙？　んー、でもこんなの書いたっけ？）
　10年前の自分が書いたのだろうかと思い出してはみるが、全然記憶にない。
（読んだら思い出すかな？）
　封筒をそっと開け、中を確認する。そこには、７歳の海が10年後の海に宛てて書いた手紙が入っていた。

『10年ごのわたしへ

　元気ですか？
　びょーきはなおりましたか？
　こんどの手じゅつできっとよくなってるよね

　おえかきはつづけてますか？
　わたしはおえかきだいすきです
　これからもたくさんかいていきたいです
　友だちもたくさんできてるといいな』

（手術前……ってことは、10年前の入院してた頃かな）
　喉に手を当てながら、入院していた頃を思い出す。
　手紙を読み返しながら、海は声が出なくなった日のことを思い出し始めた。
　声が出なくなったのは、幼い頃に手術をしたからだ。
　あの頃は、不安でいっぱいだった。
　手術の確率は低い。失敗するかも。成功しても喋れなくなる。
　幼くても、手術をすれば喋れなくなるかもしれないことは何となく理解できていた。
　そんなことを知ったので、声が出なくなる不安から逃げるかのように大好きなお絵かきに没頭していた。
　その時だけは、不安や恐怖を感じなかった。

（あの時は不安でいっぱいだったけど、今思うと、ちょっと懐かしいな）
　手術は成功したが、声が出なくなってしまった。
　声は出ないが、スケッチブックによる筆談での会話。
　手話による言葉のやりとりがきるので他人との会話は不自由することはない。
　声が出せたら……と思ったこともあるが、人付き合いがまったくできないわけではない。
　手紙を見ながら、海は10年前の自分に語りかけるようにこう思った。
（大丈夫。しゃべれなくはなったけど元気にやってるよ。絵を描くことも続けてるし友達もたくさんできた）
　少し間を置き、ほんのちょっぴり顔を赤らめながら心の中で一言。
（それに……好きな人もできたから）
　元気でやっているから安心して、と10年前の海が書いた手紙を読み返す。

　懐かしい気持ちに浸ったのはいいが、この手紙はなぜ今頃出てきたのだろうかという疑問が。
（んー、でもやっぱり書いた記憶が……。まぁ、この島ならこういう不思議なこともあるか）
　寝子島だからね、と深く考えないことにした。
　10年前の私に手紙を書いてみようかな？　と思い立った海は、便箋と封筒があったかなと探し始めた。

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