10年前の私から10年後の私へ｜リアクション

10年前の私から10年後の私へ

●正月に見つかった10年前の手紙

　水上桜は、正月三が日は木天蓼市内にある父方の実家へ泊りに行っている。
　正月２日目。
　のんびり寝正月を決めようとしたら、祖母が呼ぶので居間に行ってみる。
　こんなものが見つかったよ、と祖母が差し出したものは手紙だった。
　年末に大掃除をしていた時、タンスの引き出しの奥に入っていたのを見つけたのだという。
「10年後の自分に宛てた手紙？　そんなの出したっけ？」
　首を傾げるも、祖母からその手紙を受け取った。
　手紙を見ると、そこには何も言いようがないものが書いてあった。
　文字ではなく、クレヨンで何かの絵を描いているのだけはわかった。
　絵は殴り書きのようなものだったので、ぱっと見、何を意味するのかわからない。
「……何をかいてるかわからない。おじいちゃん、おばあちゃん、これわかる？」
　祖父と祖母なら、これが何を意味するかわかるかもと手紙を見せたが、勿論わからない。
　今となっては、これは何を意味するのかわからないので苦笑するしかない。
（何か悔しくなってきたわ）
　そう思いつつ、5歳の時に書いた手紙と一緒に、25歳になった自分に宛てて手紙を書くことにした。
「何から書こうかな……」
　ペンを手にしながら、書き出しを考える。
　書き出しが決まったので、その後の文章を考えながら手紙を書き始めた。

『25歳の私へ。

　今何をしていますか？
　好きな人はいるの？
　もしかしてもうママになってる？
　それともバリキャリ？

　答え合わせは10年後だね。
　じゃあね、25歳の私！』

　書き終えた手紙を見て、誤字脱字がないかチェック。それらはなかったが、腑に落ちないことが。
「我ながら文章下手ね……。10年後、頭抱えるんじゃないかな」
　それだけが気がかりだった。
　5歳の頃の手紙を見た今の自分みたいに、と手紙を読み返しながら桜は苦笑する。
　10年前の手紙と一緒に、書き終えたばかりの10年後への自分を封筒に入れる。
　封筒の表に『10年後の水上桜へ』と書けば、自分への手紙の完成。
　これをどこに仕舞おうか、という問題がまだ残っているが、それはゆっくり考えよう。
　
　それから10年後……。
　桜は母校の寝子高国語教師として、教壇に立っている。
「今日の授業は、10年後の自分に手紙を書く、というものです。好きなように書いてみてくださいね」
　この課題を生徒達に与えたきっかけになったのは、10年前の自分の体験からだ。
　20年前（手紙を見つけた当時は10年前）の自分からの手紙が見つかったので、生徒達にも、自分と同じようなことをと思ってだ。
　授業が終わり、部活の時間になると水泳部の顧問として部員達の指導を。
　かつての自分のように頑張っているわね、と生徒達を熱心に指導する。

　帰宅後。
　母から自分宛の手紙が見つかったと封筒を手渡された。
「ああ、これね……」
　10年前の正月に書いた手紙だった。
　5歳の頃の私、何を描いたのかしら？　と20年前の手紙を見る。
　10年前の桜が書いた手紙に関しては、何とも言えないわ……と苦笑するしかなかった。

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あとがき

担当マスター：カターレ
ファンレターはマスターページから！

カターレです。
10年前の皆様が書いた手紙。10年後の自分に宛てた手紙の内容、楽しませていただきました。
思い出が詰まっていたり、想像を膨らませたりと、いろいろな文章でした。

10年前の手紙は、タイムカプセルや宝箱を開けたような感覚になりますね。
昔の自分は、こうだったのか。
未来の自分は、こうあってほしい。
リアクションを書いている時は、私も皆様と一緒に手紙を書いている気分になりました。

ご参加ならびワクワク感を与えてくださり、ありがとうございました。

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