10年前の私から10年後の私へ｜リアクション

10年前の私から10年後の私へ

●猫が運んだ10年前の手紙

「今日は、どんなネタがあるかなー」
　響タルトは同人誌のネタ探しの散歩をしていると、１匹の猫が近づいてきた。
　その猫が手紙を咥えていたので、何かな？　としゃがんで手紙を取った。
　手紙を受け取ってくれたことを確認したかのように、猫はどこかに逃げていってしまった。
「郵便屋さんみたいな猫だねー」
　手紙を見て、タルトは「え？　どういうこと？」と驚いた。
　ひらがなで書かれていた宛名も差出人も自分の名前になっていたからだ。
　とにかく読んでみよう、と封筒を開け、中の便箋を取り出す。
（あれ、この字？　なんだか……）
　子供の頃の自分が書いたような字だったので、昔、書いたものなのかな？　と首を傾げる。
　書き出しは『10ねんごのわたしへ』だった。
「……ちょっと、これ僕からの手紙なの？　そんなの書いたかなあ、覚えてないよ」
　10年前は、さすがの僕も純粋だったよねー。と思いつつ、続きを読む。
「どれどれ？」
　目を通した先には、こう書かれていた。

『まんが家をめざしてがんばってますか？
　うまくいけば学生のうちからデビューできたりするみたいだけど、そううまくはいかないよね。

　でもまんが家になるためにはいろいろけいけんをつまなくてはならないとママがいってました。
　だからがんばっていろいろけいけんしてね。

　こいをするのもいいかも。すてきなかれしを見つけてね。
　でも一人の人とラブラブじゃいけないとおもう、いろんな人とつきあっていろんなれんあいをまなんでね。
　もしかれしがみつからなかったらおとうとをりようしてマンガのネタにしてください』

「ああ、あの頃は純粋だったよね～……純粋？　うん、ある意味純粋。僕って昔から変わってないんだねー」
　漫画が好きなのも、恋愛に興味があるのも、弟を利用して何かをしたり、考えたりするのも。
　変わったのはＢＬ、ＧＬ、ＮＬとカップリングのバリエーションが増えたことくらいだろうか。
「漫画家かー。同人マンガ書きにはなったけど」
　今のタルトは、全年齢対象の薄い本を描いている同人作家に。
　チェシャというペンネームで週刊誌「寝子島タブロイド」にイラストを掲載している。
　星幽塔で薄い本と画材の店を扱うブラック・リキッド亭を開店し、その日の気分で、コスプレをしてお客様を迎えたり。
　がんばっていろんなけいけんしてね。という点に関しては、手紙の通りになっていると納得した。
　
「さて、どうしようかな？」
　手紙を読み終えたタルトは、あの頃の自分のように10年後の自分に手紙を書いてみようと思った。
「よし、こういうのは未来の僕に丸投げしよう。10年後の僕に手紙を書くよ！」
　文章だけの手紙でなく、得意のイラストも描こうかな？　と自宅に向かいながら考えた。
　薄い本のネタとか、こんなカップリング考えてる？　とか、いろいろ書き始めた。
　書き終えるのはいつになるのだろうか、と思うほど、タルトは熱心に手紙を書くのだった。

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