幽霊猫とお化けの国｜リアクション

幽霊猫とお化けの国

　◆
　お化け兵の数もいくぶん減って、最初よりも大きく開けた視界の向こう。
　その森に近いやや低空に、修はあるお化け兵の姿を認めた。
　そいつは両手にフォークとナイフを担ぎ、そして額に人魂のような炎を宿していた。
（――見つけた！）
　間違いない、あれが指揮官タイプだ。
　気取られないように、静かに移動。少しずつ距離を詰め、銃の射程に収めようとしたところで、
「ギィッ！」
　お化け兵の奇襲。それも四・五体からなる一隊だ。
　とっさに先頭の一体の武器を『分解』するが、
「ぐぁ……っ！」
　銃を持つ腕を炎が掠めた。肌を舐める熱に、修は銃を取り落としてしまう。
　お化け兵たちはナイフとフォークを突き出し、しかしにわかに動きが鈍る。
　そして後ろから殴り飛ばされたかと思えば、赤い閃きがお化け兵を斬り裂いた。
「八神君！」
「大丈夫かい？」
　駆け寄ってくる夏朝とサキリの二人に、修は九夜山の麓を指差す。
「ああ。だが俺のことよりヤツを！」
　額に人魂を宿すお化け兵。その姿は、二人にもはっきり見えたようだった。
「よく見つけてくれた、八神。――任せてくれ」
　黒曜石のように鋭く瞳を細め、サキリは飛び出した。
　修と敵の間で視線を行き来させた後、夏朝もまた頷いて飛んでいった。

　他のお化け兵たちには目もくれず、人魂のお化け兵目がけて突貫するサキリと夏朝。
　二人の行く手に、十体ほどのお化け兵が飛び込んだ。人魂のお化け兵が気付いて仕向けたのか、それとも。
　どっちにしろ――
「邪魔だ！」
　『斬空赤刃』を発動しようとするサキリ。
　それよりも少しだけ、夏朝がねこシールを一斉射するほうが速かった。
　ショットガンのように一気にバラまかれたねこシールが、お化け兵たちに次々付着する。
　そしてサキリの背中にも、一枚。
「邪魔はさせない！」
　『重く軽く』――著しく重量を増加させられ、お化け兵たちが宙に沈む。
「こいつらはこのまま僕が！　サキリ君はそのまま指揮官を！」
　サキリは強い。とても強い。だから今は指揮官にだけ、その力を向けてほしい。
　大量のお化け兵を相手に、彼も少なからず疲労しているはずだ。だから雑魚相手に、少しであっても余計な消耗させたくなかった。
　お化け兵たちとは逆に、サキリの身体をめいっぱい軽くする。
　ならば、
「わかった」
　自重にもがくお化け兵の間を抜け、サキリは一直線に指揮官を目指す。
　
　夏朝のおかげで軽くなった身体は、転移がなくとも十二分に素早かった。
　実際サキリも疲労がつのりつつあった今、ろっこんを多少なり温存できるのはありがたい。
　セミロングの髪を夜風になびかせ、目標まで一気に迫っていく。
　不意に目標――人魂のお化け兵が顔をあげ、カボチャをくり抜いたがらんどうの瞳と視線が交差する。
　気付いたかと思う間もなく、軽いためのような動きから――豪ッ。
　他よりもひとまわりは大きな火炎が、サキリに襲いかかる。

（そこだッ！）
　空を斬り裂く。
　炎ごと空間を斬り裂くが如く、人魂お化け兵の背後へ。
　赤光帯びるカトラスと斧が、海賊の暴虐じみた獰猛さで閃いた。
　ナイフとフォークを盾にしたところで、鋼鉄すら破壊する赤刃は防げない。
　斬るというより、砕く斬撃。
　破砕音が炸裂し、人魂のお化け兵は砕け散るのだった。

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