思い出の一枚｜リアクション

思い出の一枚

☆海で遊ぶ女子たち？

　ある休日。
　自分の部屋で写真整理をしていた滝原レオンは、見覚えのない写真を見つけた。
「なんだこれ……こんなの撮った覚えねえぞ」

　写っているのは海で遊ぶふたりの女性。　
　無邪気に水をかけあって本当に楽しそうだ。
　だがその写真を見て、レオンは胸が締め付けられるような思いになる。何故なら。
（写真に写っているふたりのうち片方は男……女装した俺だから）
　女装はレオンの密かな趣味だった。
　裁縫とお菓子作りが趣味で、可愛いものが大好きなレオンは、部屋でひっそり秘密の趣味に興じているだけでは飽き足らなかった。
　休日は『滝川怜』と名乗り女装姿で街へ出ている。
　この日は、花見で出会って仲良くなった友達に誘われて、海開きの日に出掛けた。
　背は高いが男にしては細身な体格で、水色のフリルビキニで胸をカバーすれば思い切って肌を露出していてもばれなかった。
　女の子の口調にも不自然なところは全然ない。
　この秘密を知っているのは、幼馴染やごくわずかな人間だけだ。

　写真に写るもうひとりの女の子は、友達だ。
（少なくとも俺はそう思ってる。……だけど、そうなると俺は友達に嘘をついていることになる）
　いや、ついているなんてものではない。性別や名前……すべてが嘘にまみれ、嘘に支えられている関係。
（もしもこの嘘がバレた時、彼女は今まで通り接してくれるだろうか？）
　そんなわけない、とレオンは思う。
　女の子同士だから彼女は、Ｔシャツが濡れても、レオンと身体が密着しても平気でいられるのだ。
（楽しそうに俺に話しかける彼女の笑顔を見て、罪悪感に耐えられず正体を明かそうと思ったことも何度かある）
　バレないように振舞うのは疲れるし、打ち明けてしまえば楽になれるのでは、と思った。
　けれどそのたびに、本当のことが知れたら嫌われるという恐怖が勝って言えなくなった。
　最初のうちにならともかく、ずれたブラの中身まで見ておいて今更、どの面下げて言えるというのか。
　レオンは真面目だった。そして臆病だった。
　目つきが悪く不良と思われがちな本来の男の自分と、可愛らしい女の子の怜を別人格として割り切れていたら、こんなふうに悩むことはなかったろう。
（この関係を壊したくない。自分勝手かもしれないけど、これが俺の思いだ）
　レオンは願う。
（永遠になんて言わないから、なるべく長く彼女の笑顔がそばで見られますように。……ああ、でも）

「……俺が本当に女だったらよかったのになぁ」
　レオンは切なくため息を吐いた。

このページにイラストを設定する