【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略｜リアクション

【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略

　２３

（さすがに、まだ人が少ないなあ）
　夕日に照らされた寝子島神社の参道を、羽生碧南はのんびりと歩いていた。本来、初詣は新年になってから行うものだから、夕方から来るのはちょっと早い。混んでくるのはこれからだろう。
（でも、今日は鎌倉に行くから新年まではこっちにいられないんだよね）
　鎌倉の祖父の家には、家族全員が揃っている。以前に皆で住んでいた自宅は火事で焼けてしまい、碧南以外の家族は鎌倉に住んでいるのだ。
　色々な用事が重なって遅くなってしまったが、碧南はあまり急いでいなかった。
（まあ、朝までに行ければいいよね）
　そこまで遅くはならないだろうけどと思いながら、マイペースに階段を登ってお参りをする。
「………………」
　来年の抱負や希望、家族の健康等をゆっくりと願い、神社を後にする。
　桜花寮に戻って宿泊用の荷物を手にし、外に――出る前に食堂の前を通った。夕食どきというのもあってそこそこの人がいる。
（年越しそばを食べてから行こうかな）
　食堂の入口に、年越しそばの提供時間が書かれた紙が貼ってある。後３０分程で終了で、次は年越し間際になるようだ。トシコさんに年越しそばを頼むと、程なく熱々のどんぶりが出てきた。
「はい、どうぞ。火傷しないように気をつけてね」
「ありがとうございます！」
　ふーふーと冷ましながらそばを食べる。ずっと寒い所にいたから、その熱さが心地よかった。
（外に出てもしばらくは暖かそうだな）
　完食し、お腹がぽかぽかしているのを感じながら立ち上がる。
「来年もいいお年をー」
　皆に手を振って食堂を後にし、寮を出る。シーサイドタウン駅まで歩いていこうと足を進め、しかし途中からは主に、海岸でいっぱい屋台が出てるんだよなー、ということを考えていた。
　気まぐれというより、本能に従って寄り道を決める。
（うわー、美味しそうなものがいっぱい！）
　賑わう人々に活気のある屋台の呼び込み、食欲をそそる匂いが碧南のテンションを一気に上げた。
「すみません、お好み焼きください」
「りんご飴をひとつ！」
　その他にも両手で持てるだけ食べ物を買い、空いていたテーブルに座って食事を堪能する。食べ終えて残ったりんご飴を舐めながらぶらぶらしていると、寝子ヶ浜海浜公園の一角でストリートミュージシャンが自作の歌を披露しているのを見つけた。彼等の歌を最後まで聞き、撤収まで見届けると次にパフォーマンスを始めたのは大道芸人だった。
「どうもありがとうございましたー！」
　帰っていく大道芸人に拍手をして、途中から音楽が聞こえてきていた方へ歩いていく。そこには特設ステージが出来ていて、寝子島出身の有名なバンドが皆を盛り上げていた。
「いえーい！」
「いえーい！」
　皆と一緒に声を出してライブを楽しみ、気がつけばもう２２時を過ぎている。
（そろそろ鎌倉に行こうかな）
　そう思いながら遊歩道へ行き、駅を目指し始める。すると、道の先から特徴的なワカメヘアの人物が歩いてきた。
「やあ、偶然だね」
　ワカメヘア――碧南の片想いの相手である鷹取洋二は、立ち止まって声を掛けてくる。
「ぐ、偶然ですね！」
　心臓をドキドキさせながら、背筋をピンと伸ばして挨拶をする。
「お一人ですか？」
「そう、一人だよ。友人と食事して、その帰りなんだ」
「そうなんですか！　私は今日、家族へのお土産を買って、神社に行って、ご飯食べて……」
　思いつくままに喋るが、自分で何言ってるかわからない。余りにわからな過ぎて、変に思われているかと思ったが、洋二はいつもと変わらない様子でこちらを見ている。
「あ、あの、一緒に花火見ませんか？　よ、良かったらでいいんですけど！」
「いいけど……帰省はいいのかい？」
「大丈夫です！　終夜運転ですから！」
「……そうか。じゃあ、喜んで」
　花火が始まると、洋二は花火の素晴らしさを滔々と語り始めた。
（……先輩）
　花火は綺麗だった筈なのに、碧南の瞳には嬉しそうな洋二の横顔しか映らなかった。