【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略｜リアクション

【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略

　２２

「……さて」
　星ケ丘寮の二階の部屋――倉庫こと資料室、アトリエ『魔女の座』の窓から見える海を真正面から眺めていた旅鴉月詠は、くるりと振り返って気合を入れた。
「掃除を始めよう」
　大晦日といえば、掃除である。
「アトリエも含めて大掃除はしないとね」
　最初に、ろっこんを使って作品を片付けることにした。月詠のろっこんは、視認した『動物でないもの』が彼女の絵に触れると、絵として封じることができるというものだ。
「まずは、これだね」
　スケッチブックに描いた美味しそうなブラウニーの絵に、人型の彫刻を触れさせる。彫刻がその場から消えてスケッチブックの一枚目に収まった。
「次は……」
　植物をモチーフにした粘土細工を。大きなキャンバスに描いた抽象画を、次々に絵に封印していく。
　この部屋には、これまでに創作の為に使った資料と、月詠が創作した作品が納められている。利用を始めてから随分と経つから、作品は所狭しと置かれている。
（まあ、販売する為に作ったものやあげてしまったものもあるけどね）
　作品を一つ一つスケッチブックに入れながら、造る時に何を考え、感じていたのかを思い出す。合間合間には、既にこの場に無い作品のことを考える。
　単調でありながら、頭の中では常に何かを思考していて、作品が片付いた頃には、夕方になっていた。
「……さて、これで埃の掃除が出来るな」
　部屋の隅に置いてあったバケツと雑巾を手に取り、バケツに水を入れて雑巾を絞る。
　掃除道具は、同居しているメイド達が揃えてくれた。
（主人だからといって、使用人に全て任せるのもどうかと思うからな）
　やりますよ、と申し出てもらったが、それを断り、今こうして掃除をしている。慣れないから時間は掛かるが、割と楽しかったりする。
「自分の活動範囲は、できるだけ自分でやらないとな」
　メイド達は普段の業務を早々に終わらせて忘年会の手伝いに行った。
（忘年会か。解散の前には掃除も終わるだろうが……）
　例え遅くなったとしても、月詠が食べる分は彼女達が取っておいてくれるだろう。
　空いた棚や机を雑巾がけし、はたきで本棚の埃を落とす。それが終わると、ろっこんを解除して元に戻した作品を軽く検品し、掃除をして棚に戻し始めた。
　絵になった作品を元に戻す作業を始めてから、月詠はすっかり時間を忘れてしまった。
「……これは、絵になると趣が変わるな……」
　彫刻の絵から受ける印象の変化に、これの絵画バージョンを造ってみようかと考えたり。
「これは夏に造ったものだな。造詣を決めるのに何日もかけた……」
　しみじみと当時のことを思い出したり。
　それを繰り返していると、あっという間に時間が経っていた。窓の外はすっかり暗くなり、時計を見ると年越しまで後少しだった。
「ふう、時間がかかるなやはり」
　それだけ多くの作品を造ってきたということだ。
（作品を見て記憶を思い返す時間は、まあ不可抗力だ）
　この島で起きた不思議。不思議な世界の話に纏わる作品も色々ある。
「卒業までに、この部屋は私の作品で全て埋め尽くされるだろうな」
　そしてその時、何かが起こる――
「……ことはないんだけどね」
　月詠は苦笑し、全ての作品を元に戻した部屋を見渡すと仕上げに床をモップがけして、窓を雑巾で拭いた。
　掃除道具も全て片付けると、ぴかぴかになった部屋の真ん中でひとつ頷く。
「では、忘年会に顔を出すか」