【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略｜リアクション

【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略

　２１

　日が落ちてから間もない頃、楡宮遠海は星ヶ丘寮へ向かっていた。一人ではなく、友人が一緒だ。
「もう、道に迷いそうだからって人を誘うなんて……」
　ぷりぷりと怒る友人に、遠海は両手を合わせて謝った。
「ごめんね。今度行きたいところ一緒に付き合うから」
「まあいいけど……私も星ヶ丘寮の忘年会行ってみたかったんだ！」
　何だかんだで楽しそうにしている友人と一緒に星ヶ丘に向かう。白いおしゃれな建物が沢山見えてきた。
（彼女のおかげで、最大の難関だった方向音痴をクリアできたわ！　……ん？）
　友人と話しながら歩いていると、前方から良い匂いがしてきた。
「年越しそばだ！　ねえ、食べていかない？」
「えっ、これからごちそう……ま、大晦日だし、行こうか」
　通りかかった店に入って、年越しそばを食べる。おかわりを４回すると店の人と友人に驚かれたが、遠海としては腹ごなし程度だ。
「ありがとうございましたー」
　店員に見送られて外に出て、レストランに向かう。夜闇の中で、白く豪華なレストランはきらきらと光り輝いていた。

「うわー、どれもこれも実物見ると迫力が違うわ……！」
　さすがに星ヶ丘寮なだけはある。
　遠海の目の前に広がるのは、ネットの画像検索とかでしか見れなさそうな豪華な料理ばかりだった。
「もう、どれから手を伸ばせばいいのかわからない……」
　それなりに順序や食べ方を考えていたのだが、いざ高級料理を前にしたらそれどころではなくなってしまった。
「今日は忘年会だから、お金は一切取らないわ。ただのパーティーだから好きなものを食べてね」
　理事長の桜栄あずさが最後にウインクをして言ったのを聞いて、遠海はその瞬間に全ての枷を外した。
「もう我慢できない！」
　目についたものから皿に取って、それを自分のテーブルまで持って行く。
「……ふふ」
　友人も遠海の行動を見て肩の力を抜いた笑みを浮かべ、料理を取り始めた。
　そう時間も掛からず、遠海のテーブルは様々な料理の皿で埋め尽くされていた。
「いただきます！」
　まず、牛肉の赤ワイン煮を食べ、ボルチーニ茸とトリュフのカルボナーラを食べ、シェフ特性ドレッシングがかかったサラダを食べ、中華コーナーから取った炒飯を食べ――
「うん、美味しー！」
　とにかく、片っ端から食べまくる。
「……………………」
「すごい……」
　遠海の食事量に気付いた参加者達が、何げに注目をし始める。
「どこのご令嬢かしら？」
「ご挨拶したことはないけど……」
　学生ではない、遠海を知らない婦人達が首を傾げている。今日、遠海はそれなりにおしゃれをしてやってきた。見た目だけなら鎌倉の名家のお嬢様然とした清楚な美少女だ。カジュアル寄りだが、高級ホテルでも十分通用するような服を着ている。その為、婦人達は遠海をいいとこの令嬢だと勘違いしたらしい。
「これも美味しい！　海老がたっぷり入ってる！」
「本当によく食べるわね」
　規格外の大食いっぷりに、彼女が大食いだと知っている友人もつい苦笑してしまう。
「軽音部でハードな練習をこなしてるから、どうしてもその分、お腹がすくのよ」
　話しながら、遠海はまた次の料理を平らげる。ガツガツとした食い散らかすような下品な食べ方ではなく、あくまでもきちんと丁寧に美味しそうに食べるので、見ていても不快さはない。
「何だか私もお腹が空いてきたわ」
「あれも食べましょうか」
　むしろ、ギャラリーの食欲を増進させ、忘年会の盛り上がりに貢献していたのだった。