【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略｜リアクション

【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略

　１５

　水上桜は、大晦日の夜を桜花寮でのんびりと過ごしていた。そこに、友人が部屋に入ってくる。寝子島高校で毎日顔を合わせている仲の良い友人だ。
「やっほー、元気してる？」
「わ、どうしたの？　いきなり」
「ねえねえ、エノコロ岬行かない？」
「え？　これから？」
　時計を見ると、もう２３時を過ぎている。暖かい部屋の中で出かけるモードでもなかったので、桜は少し眉を顰めた。
「南京錠を買いに行きたいの！」
「南京錠？　あー……」
　エノコロ岬高台にある土産物屋には、『自分と片思いの相手のイニシャルを書いた錠を祈りを込めて柵にかければ、猫神様が相手に届けてくれる』――更には『相手がいなくて出会いを求める場合は、自分のイニシャルと猫の絵を描くことで、良縁を呼んでくれる』と言われている南京錠が売られている。
　効果の程は定かではないが、友人はその土産物屋に行きたいらしい。
「だったら一人で行けばいいじゃん」
　と、そう言ってみると、友人はわかりやすくしょげてしまった。
（なんだかんだ言って、寂しがり屋なんだから）
　小学校以来の付き合いだから、彼女の性格はよくわかる。
「えー、一人は寂しいよ……」
　それに、緊張するのだと友人は言った。彼女は明るくて快活な性格だが、カップルの聖地のようなスポットに一人で行くのは周囲の目が気になるのだろう。
「しょうがないなあ。うん、良いよ」
　桜は苦笑して身支度をして外に出た。暖かい部屋に長くいたからか、外気に触れた瞬間に体がぶるっと震えた。

　高台に着くまで、友人は恋愛についての野望を熱く語っていた。
（夏にあれだけ気合を入れてたのに彼氏が出来なかったからね……）
　桜は、夏に「彼氏をゲットする」と宣言していた彼女を思い出し、そして、達成できずに激しく落ち込んでいる彼女も思い出した。その時は、友達として随分と励ましたものだ。
　彼女はとにかく、恋愛に対するモチベーションが高いのだ。
「南京錠を手に入れれば、きっと来年早々に彼氏ができるよ！」
「それで、好きな人は出来たの？」
「…………。まだ」
　そして彼女は、この南京錠の言い伝えの良いところは、独りでも好きな人がいなくても願掛けが出来て良縁を呼んでくれるところだと熱く話す。
（良縁か……）
　桜は彼女ほど恋愛に貪欲になれない。恋人はいないならいないでいい、くらいの気持ちだった。
（いれば楽しいだろうな、と思うけど……）
　恋愛に情熱を注ぐ友人が理解できないような。羨ましいような――
　エノコロ岬の高台に着くと、土産物屋も猫恋の鐘も混み合っていた。その中で何とか南京錠を購入する。桜は買わないのかと訊かれたが、遠慮しておいた。
　友人が真剣な目で南京錠に自分のイニシャルと猫の絵を描き、柵に繋ぎとめるところまで見届けた時、新年を迎えた。
「あけましておめでとう！」
「おめでとう」
　新年を迎えて、周りの興奮を見て、遅まきながら桜もわくわくし始めた。
（ま、一人で新年を迎えるよりは良かったかな）
　彼氏を作るぞ、と気合を入れている友人を見ながら、桜は静かに微笑んだ。