妖精のカフェ｜リアクション

妖精のカフェ

●恋人達の甘く、苦いエピソード

　可愛いスタッフ達は、おしぼりを持って来たり、空いた皿を片づけたりと一生懸命働いていた。
　せっせとカップを下げたり、テーブルを拭く姿を見ながら城山水樹はヒュー・ヒューバートは顔を見合わせ可愛いと微笑む。
　森にいるかのような雰囲気を楽しんだ二人は、そろそろ出ようかということに。
「ご馳走様でした。おいくらですか？」
　ヒューが財布を取り出して代金を支払おうとするが、店主は「お代はいただきません」と支払いを制止。
「お代は、お客様の大切なお話です。私に何か、あなた達のお話を聞かせていただけませんか？」
　あらゆる世界で、その場所に因んだエピソードを収集するのが店主の楽しみなのだとか。
「お代はエピソード？　こういうのでもいいのかしら」
　そう言って水樹が語りだしたのは、隣にいるヒューとの馴れ初めについて。
　気恥ずかしさもあったが、当たり障りのない程度に話せばいいでしょうと思い、コホンと咳ばらいをしてから語りだす。

「話せば少し長くなるけど……」
　昨年の夏、水樹は盛大に失恋した。
　思い出すのは昨年のネコミュージックフェスティバル。
　当時付き合っていた元彼氏と一緒に行くはずだったが、とあるアクシデントで致命的ともいえる喧嘩を。
　事の発端は、元彼氏と熱い夜を過ごしたホテルでの出来事だった。
　元彼氏は水樹ではなく、別の女性の名前を呟いてしまったことで二股が発覚。
　あまり思い出したくないので詳細を伏せ、店主とヒューに話した。
「あれは本当に嫌な思い出だったわ……。でも、今年のネコミュージックフェスティバルはヒューとおもいっきり楽しめたわ」
　それから……と間を置き、次の話を。

「クリスマスの日にヒューと出会うまでは、しばらくおひとり様で過ごしていたわ」
　おひとり様も悪くないと思っていた水樹だったが、ひょんなきっかけでステッラ・デッラ・コリーナのお見合いパーティ会場へ。
　自慢話ばかりするお見合い相手にうんざりしていた時、そんな相手達と違うヒューを見て直感的にこう感じた。
　種類は違うが、自分と同じく心に傷を抱えていると。
　自分に近いものを感じ取った水樹は、どこか飲みに行こうと誘ったのだった。
　その後の二人っきりの熱い出来事は……思い出すのは恥ずかしい。
（ちょっと恥ずかしかったかな）
　顔を赤らめる水樹を見て、ヒューは「大丈夫？」と心配する。
「だ、大丈夫よ、初めて会った日のことを思い出したら恥ずかしくなって……」

　僕もクリスマスの時の話を……と、ヒューも水樹が話した件について語る。
「お見合いパーティーに参加したのは、その気はなかったんだけど、友人に勧められて断わりきれなかったためだったんだ」
　その時、向かいに座った五人目か六人目の相手が水樹だった。
　彼女の実家の古書店に興味を示したので、どんな仕事かと聞いたりした。
　受け答えに感心するヒューに対し、水樹は面映ゆいが悪い気はしていないように思えた。
「結果的には、それが水樹と出会うきっかけになったのかな」
「そうかもしれないわね。ヒュー、私の話をちゃんと聞いてくれていたわよね」
　素敵な馴れ初め話ですね、と店主は少し羨ましそうだ。
　妖精達は幸せそう、楽しそう、嬉しそう、と小躍りしながら水樹とヒューの周りを飛び交う。

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