……アンド・ユア・バード・キャン・シング｜リアクション

……アンド・ユア・バード・キャン・シング

　片方の手のひらを上にすればいいだけのところを、なぜか左右両方で、しかもスローモーなダンスを踊るような動きで鷹取洋二は天に向ける。
「んー？　降ってきたようだねぇ」
　ぽつ、ぽつ、と断続的ながら細かな雨粒が落ちてくる。
「船内に入ろうか？」
　八神修が七夜あおいに呼びかけた。手をさしのべようとするもあおいは首を振って、
「もう少し甲板にいたいな」
　船首のほうに歩み出す。そこには鴻上彰尋がいて、折りたたみ傘を開こうとしていた。
「彰尋くんさっすが、準備いい～！」
　野々ののこが手を叩き、するりと傘の下に入った。
「たまたまだよ」
「ところで彰尋くんは」
　ちらっとあおいのほうに視線を送って、すぐののこは前に向き直った。
「どうしてボランティアに応募したの？　私は単に面白そーだから♪　高校生活なんてあっという間だから、やれる間にいろんなことに挑戦したいじゃん」
　野々さんと大差ないよ、と彰尋は言う。
「ボランティア自体に興味があったし、その施設が物珍しい場所にあるので、どんな風なのだろうと好奇心がうずいてしまったし……まあそんなところかな。それに」
「わかってるって」
　ふふ、と猫のような口をしてののこは笑った。
「いや、その……野々さんと一緒なのも楽しみだし、鷹取先輩のよい気分転換にもなったらって、思ってるし」
　正直でよろしい、といった意味のことをののこは言い、あおいを手招きした。
「あおいちゃん、ほら見て、もうすぐ上陸だよ！」
　船が大きく揺れた。絶壁に立つ建築物の姿も揺れて見える。
　絶壁に立つ施設は、ずいぶん殺風景な外観だった。
　コンクリート塀に囲まれていて、やはりコンクリートの塔もある。夏場なら草が青々と茂っていたのかもしれないが、真冬のためか周辺は荒涼とした枯野でしかない。
　想像とちがってたな、と彰尋は思う。
　静かで穏やかな保養施設、というイメージがあったけど――。
　なんだか、刑務所みたいだ。
　彰尋と同じような不安を感じたのかもしれない。
「思ってたより大きいね」
　隣で足を止めて、あおいはつぶやく。明るい声ではなかった。　
　修もやってきて、船首の手すりに手をかける。
　――不吉な見た目なのもむべなるかな、だ。
　どうしても険しい目になってしまう。
　修は知っている。あれはかつて、当時の医学では治せないとされていた難病患者を強制的に隔離収容するための施設だったということを。
　長らく放置されていたのをＥＡＢという団体が無料（タダ）同然で買い上げ、現在の『支援施設』に改修したということも。
　修のポケットには一通の手紙が収まっていた。
　流れ着いた小瓶より取り出したものだった。堤防で釣りをしていたときに見つけた。
「海鳥でも探そうかな」
　さりげなく言って修は、望遠レンズ付きカメラを取り出す。
　すでに先日、修は漁船と操舵者を雇い、島を巡って下見を行っていた。いまはその確認をしているだけだ。
　海鳥を見つけた体をとり、何度もシャッターを切る。
　けれど鳥には目もくれない。
　撮影するのは鉄格子、監視塔、そして警備員たちだ。