……アンド・ユア・バード・キャン・シング｜リアクション

……アンド・ユア・バード・キャン・シング

　まさかこんな小さな島に来ることになるとはな。
　奇縁というものだろうか。
　所長室に通され、藤堂静はイスに腰を下ろす。
　ホテル勤め時代の元上司、守本薫から施設の話を聞いた。興味を持った静は代表の著書などに一通り目を通している。そうして二店舗の資本などの情報をまとめた資料も用意したうえでアポをとり、話を聞きに来たのだ。
　坂元は身振り手振りを交えて明るく、施設の目指すもの、自己の理念など聞くに堪えないことを言った。
　当人としてはご立派な理想かもしれないが、静には到底理解できない。同意できるところもほとんどない。しかし、否定はしないでおく。
　適度なところで切り出した。
「人を求めてる。おたくに入所中の人を紹介してもらえればそれでいい。社会復帰のきっかけになるだろう」
　うかがいましょう、と坂元は言う。
「調理や清掃、裏方で経理や事務関係の仕事もあるから必ずしも接客……対人スキルの有無や適正は求めない。幸い余裕があるんで、本人のやる気があれば技能取得の支援もできる」
　それはそれは、と坂元は両手を組み、イスに背中を預けた。
「カフェは未成年や学生、育児中の女性の受け入れも前向きに検討している」
　坂元の反応が悪いような気がした。静は少し口調を落として続ける。
「社会復帰するための受け皿が多い方が、施設の運営が円滑になるだろうし、そちらの実績にもなると考えるがいかがだろうか？」
「たいへん結構なお話ですね。ですが、なぜこの施設で求人をしようと？」
「著作は読ませてもらった。EABの考え方に共鳴して……」
「本当のことをおっしゃってくださいよ」
　坂元は、にやにやしながら首を傾げて見せた。
　感づいているのか。
　静が著作を一通り読んだこと、それは事実だ。
　坂元の本は大きく分けて二種類ある。引きこもり問題について書いたもの、そして自己啓発書だ。
　どちらにも、静はまったく同意できなかった。
　引きこもりについて書いたものは、坂元が語ったこととほぼ同じだ。引きこもりを社会の病原菌と断定し、たたき直せと精神論を唱える。しかも結末部はしっかり、EABの宣伝になっているという構成だ。
　自己啓発書はさらにひどい。弱者を食いものにせよ、というような過激な文言が並んでいる。努力しない者は死ね、といった思想も垣間見えた。病気や家庭事情で、努力したくてもできない人間がいるなどとは想像したこともないのだろう。
　この施設より、一人でも人を救い上げようと思って静は坂元に会いに来たのだ。
「……そうだな」
　静は息を吐き出して、言った。
「俺も生きるのが下手でね。それが他人の面倒見れる程度に余裕が出てきたから、手伝いたくなったのさ。自分勝手だろう？」
「なるほど、そういうことでしたら」
　坂元は立ち上がった。満足そうな表情をしている。
「案内しますよ。施設を見ていってください。めぼしい者を探すお手伝いをします」