ねことねずみと魔法の街｜リアクション

ねことねずみと魔法の街

●魅惑の巨大チーズ食べ放題
　チーズ食べ放題の会場はすでに大勢のねずみたちで賑わっていた。
「ふわぁ……凄く……おっきいね……」
　タルトは目の前に置かれた岩のように大きな穴あきチーズに目を奪われていた。
「ええ。これは想像以上ね」
　と、そのとき、隣でどこかで聞いた声がした。
　振りむくと、そこにはさっき『おさかなさん天国』で優勝をかっさらったスリムなねこ――遠海がいた。
「あ、キミも来たんだ。凄いおっきいね。でも、いくらキミでもあれだけ食べた後にこれは――」
「え？　普通に食べるけど？」
「ええっ！？」
　さも当然のように言う遠海に、タルトはその場から飛び上がりそうなほど驚いた。
「まあ、さすがに全部は無理ね。魚を食べなかったら、1つ2ついけたかもしれないけど」
「す、凄いね……。僕は少しずつ貰うことにするね」
　タルトは、用意されていたナイフで、色々なチーズを少しずつ食べることにした。
「カマンベール、チェダー、ゴーダ、ゴルゴンゾーラ、あ、魔法のチーズってなんだろ？」
　きらきらと光りの粒子を放つ魔法のチーズは、まさしく魔法にかけられたような、不思議な味がした。
（うーん。おいしい。なんだか、いつもより格別おいしい気がする。なんでだろう？　ねずみだからかな？）
　まるで、普段の自分は「ねずみ」ではなかったようなことを思いつつ、ついついタルトは想像以上の量のチーズを口に運んでしまった。

　パティと瀬莉は少し遅れて、食べ放題の会場に着いた。
「ちゅごいでちゅ！　岩のように大きなチーズが山のようにあるでちゅ！　あちし、負けへんでちゅ！」
　パティは、謎の闘争心を燃やすと、凄まじい勢いで巨大なチーズにかぶりつき始めた。
「むむ！　このモッツァレラチーズは格別でちゅ！　おっと、こっちのヴァランセもヤギ臭くなくて食べやすいでちゅよ！」
「……チーズってたくさん種類があるんだね。まだたくさん残ってるみたいだし、あたしももらおうかな」
　最初は欠片でももらえればいい、と思っていた瀬莉だったが、パティや他の参加者の気持ちの良い食べっぷりを見ていると小腹が空いてきた。
「ねぇ、パティちゃん。何かおすすめのチーズってあるかな？」
「ふむ？　任せるでちゅ！　マジカルタウンのチーズソムリエと呼ばれたこのあちしが、あなたにぴったりのチーズを厳選してあげるでちゅよ！」
　パティは、小さなねずみでも食べやすい、クセのないチーズとして「カッテージ」や「ブリーチーズ」をおすすめしてくれた。
「え？　ブリーチーズって、これ、「カビ」なの？」
「だいじょうぶ！　身体に害のないカビだし、食べてみると意外とクセがなくてむしろクセになる味なんでちゅよ！」
「そ、そうなんだ」
　パティの言葉を信じて、瀬莉は思い切ってその「カビ」のチーズを食べてみた。
「……あ、本当だ。おいしい。全然カビっぽくない」
「でちょ？　むふふ、チーズソムリエの目に狂いはないのでちゅよ！」
　パティがえへんと胸を張り、それからはたと気づいたように言った。
「……ところで、そこで眠っている「ねこ」さんは誰でちゅか？」
「むにゃむにゃ。もう食べられないわ……」
　パティの視線の先には、魚とチーズをたらふく食べて、思わず気持ち良くなって眠ってしまった遠海の姿があった。