ねことねずみと魔法の街｜リアクション

ねことねずみと魔法の街

●崖の上のねこ
　配達員の仕事範囲は広い。
「……これは……困ったぞ……」
　拓郎は、魔法の地図に記されたお届け先の住所を見て、小さく唸った。
　届け先は、マジカルタウンのはずれにある鬱蒼と生い茂る森を越えた、その先にある崖の上に立つ家だった。
　正直、なぜそんなところに家を建てたのか、小一時間問いただしたいような立地だったが、建ててしまったものは仕方がない。
　しかし、場所の遠さだけならいざ知らず、その届け物にお届け時間指定がされているのは困りものだった。
「……森を自転車で突っ切るのは無理があるし……かといって徒歩じゃあ絶対に間に合わない……」
　どうしたものか、と思わず天を仰いだとき、箒にまたがった魔女の姿が見えた。
「あ、魔女さんだ……」
「あ、配達員さん、今日はよく会うね！」
　彩葉も、拓郎に気づいて、声をかけてくれた。
　と、そこで、拓郎はこの危機的状況を打開する解決策を思いついた。
「……あの……魔女さん……ちょっとお願いがあるんだけど……」
「……？」
　おもむろに切り出した拓郎に、彩葉は小さく首を傾げた。

「なるほど！　それは大変だね！　わかった、じゃあ後ろに乗って！」
　状況を理解した彩葉は、すぐさま箒の後ろに拓郎のスペースを作っていった。
「……ありがとう……助かるよ……！」
　拓郎はお届け物をバッグに詰め込むと、自転車と荷台に魔法の鍵をかけて、彩葉の後ろにまたがった。
「それじゃあ飛ぶから、しっかり掴まっててね！　はじめはちょっと怖いかもしれないけど、すぐ慣れるから！」
「……う、うん！」
　頷くやいなや、二人の身体がふわりと浮き上がった。
　と、次の瞬間には箒の柄の先端がぐんっと持ち上がり、瞬く間に森の木々を見下ろせるほどの高度に達する。
　そのまま、彩葉は箒の先端を器用に目的の方向に向けると、まっすぐに箒を加速させた。
「このまま真っすぐでいいんだよね？」
「……う、うん。この森を抜けた先……崖の上にある家に――あ、見えた」
　程なくして、拓郎は目的の家を発見した。
　そこで、拓郎はすぅっと大きく息を吸い込んで――、
「……お届けものにあがりました……！　サインか、はんこをください……！」
　大きな声を張り上げて、家の住人に呼びかけた。
　すると、バタンと扉が開いて、中からねずみが飛び出してくる。
「待っていたでちゅ！　遠いところからはるばるご苦労様でちゅ！」
　拓郎は彩葉に下ろして貰って、無事に届け物を渡し、はんこを貰うことができた。
「配達員さん、お疲れ様！」
「……魔女さん、ありがとう」
　拓郎は魔女に頭を下げて、それから自転車の場所まで送ってもらうために、もう一度箒の後ろに載せて貰った。
「ところで、配達員さん、まだ他にもお届け物はあるんだよね？」
「……え？　あ、うん。そうだけど……」
　とっさに彩葉の意図するところが掴めず、拓郎はいつも眠たそうな目をぱちぱちと瞬かせた。

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