【クリスマス】あなたに会いたい、雪降る聖夜｜リアクション

【クリスマス】あなたに会いたい、雪降る聖夜

●駅前広場のレストラン～次書く物語は

「空港行きの電車の時刻までまだ間があるから食事でもしようか」
　水族館でのひと時を楽しんだレイ・ブライトンとシャロン・ナイトプレッジは、駅前広場を見下ろせるレストランに入り、窓際の席へ案内してもらった。
　向こうに帰ったら豪勢な会食続きになるだろうからと軽めのコースにし、会話を楽しみながらのディナー。
「わ、上から見る広場も綺麗ね！」
　シャロンは頬杖をついて窓の外を見つめる。
　レイは食後の紅茶を嗜みながら寝子島生活を振り返って言った。
「日本人はなんでもイベントにしたりお祭りやエンターテイメント要素を盛り込むのが本当に上手だよね」
「特にこの島はお祭り事が多いかも」
「そうね、同じお祭りでも年ごとにテーマを変えたりするのは探求心みたいなものを感じるわ」
「うん。英国もイベントごとは割と力入れてやること多いけど、趣向が違うから新鮮。こうやって離れて眺めるだけでも十分楽しいね」
「そうね……」
　シャロンの返事がうわの空ぎみになってきた。
　次の曲の構想でも浮かんだのかもしれない。
　レイはしばらく黙ってシャロンの空想の邪魔をしないようにしていたが、あまりにも沈黙が長いので話題を変えた。向こうじゃなかなか話し辛い話題かもしれないからと気になっていたことだ。
「そうそう、シャロンは例の彼と再会できたんだっけ？」
「！　そう、そうなのっ」
　『例の彼』とはシャロンが来日する切欠ともなった幼い頃偶然英国で出会った初恋の人のことだ。
「まだまだ彼の教えてくれた音楽の素晴らしさを体現できないけど……偶然仕事で彼と会えて話が出来たのはすごく嬉しかったわ」
　シャロンの頬がばら色に染まる。
　思い出すとそれだけで嬉しくて心が湧きたつ。
「また意欲を貰えた。それに――もっと、好きになったわ」
　熱くなった両頬を押さえ、声をひそめて打ち明ける。
　誰にでもこの話を出来るわけじゃない。
　レイだからだ。彼との間に培ってきた信頼があるからだ。
（レイが相手なら大丈夫、ちゃんと話せる）
　レイは話を聞くのがうまいと思う。
　物語る人は聞くのも上手いのだろうか。
　ただ、聞いてくれるのだ。ただ物語を味わうように聞いてくれる。
　レイに話すとなぜか安心する。
　心の中の澱が流されてゆくような……自分のなかに綺麗な空間が出来るような感じがする。
　思いの丈を話せてすこしすっきりした様子のシャロンを優しく見つめ、レイは席を立ちあがった。
「そろそろ時間だね。飛行機に遅れないように空港に向かおうか」
　空港ではもうひとりの親友が待っているだろう。あちらの方が先に着いていそうだ。
「遅い、と叱られるかな。二人揃ってお説教されるのも悪くはないけどね」
　茶目っ気含みでウィンクすると、シャロンもウィンクを返してきた。
「ふふ、怒られたら私が駅に荷物を忘れかけたことにするわ」

　さあ帰ろう。懐かしき祖国へ。
　駅で大きなスーツケースを回収し、シャロンと並び歩きながらレイは思う。