【クリスマス】あなたに会いたい、雪降る聖夜｜リアクション

【クリスマス】あなたに会いたい、雪降る聖夜

●マリンパラダイス～心寄せる人と

「あら、あの後ろ姿はもしかして……」
　トンネル水槽の列に並んでいた御巫時子は、見覚えのある猫背とぼさぼさ頭に胸をときめかせた。
　なかなか連絡の取れなかった五十嵐尚輝先生だが、ここで偶然出逢えるなんて。
　先生はいつも通りの猫背にぼさぼさ頭だ。ザ・普段着という出で立ちから察するに、純粋にいつもと違う生き物の姿を見たいと期待してこの場所に来たのだろう。
「尚輝先生もいらしていたんですね」
　声をかけると、先生は悪戯が見つかった子どもみたいな気まずそうな顔で頭を掻いた。

「おや、御巫さんも見に来たんですか」

「ええ、折角ですから、クリスマス限定のイベントやいつもと違っているようなところを見たくて……もしよろしければ、一緒に見学しませんか？」
「かまいませんよ。では折角ですから、違いを探しながら見ましょうか。観察眼を鍛える訓練になりますから」
　時子はまず、水槽の外の違いが目に入った。飾りつけも違うし、受付や案内のスタッフさんもサンタの恰好をしていたり、作業着の方もワンポイントにリースののバッチを着けていたりしている。それを伝えると、先生は「いいですね、どんどん見つけましょう」と頷く。
「あ、御巫さん見てください。珊瑚もクリスマスツリーみたいに飾りつけされていますよ」
　尚輝先生が指さした水槽を一緒に眺めるのも楽しく、わくわくしてしまう。

「本当にクリスマス一色ですね……至る所がクリスマスで溢れてます」

「そうですね。おやこのスケジュール表を見ると、まもなくペンギンパレードが始まるようですね」
　通路に掲示されていた本日の予定を見た尚輝先生に促されるように、ペンギンプールから続くお散歩コースへ向かってみる。
　時間になると係の人に促され、ペンギンたちが一匹ずつよちよちと並んで歩いてきた。
　しかも今日だけ特別仕様で、クリスマスに因んだサンタ衣装やトナカイの角をつけて登場だ。
「まあ……ペンギンさんたちがクリスマスの衣装でお散歩なんて」
　あまりに……あまりに可愛らしすぎる！
　鳥ラブな時子はすっかりメロメロになってしまった。
　一匹が道を外れて時子のほうへ近づいてくる。
（ああ……こっそりお話できたら……！）
　願ってしまったせいだろう。急にペンギンたちの声が理解できる言葉として聞こえてきた。
（あ、うっかりろっこんが発動してしまったのですね）
　時子の＜鳥の囀り＞は、会話したいと強く願うと鳥類と会話ができるのだ。
　ペンギンも鳥類だから、話せるようになったのだろう。
『頭や身体になにか着せられて、いつもと違ってなんだか変なかんじだよ』
「可愛らしいですね。とっても似合ってますよ」
　他の人に聞こえないように、声を潜めてペンギンさんに話しかける。
『今日はなあに？　みんないつもより優しいの』
「クリスマスっていって、人間にとって特別な日なんですよ……」
『へえ～人間ってフシギだね。でもご馳走もらって嬉しかったよ』
「そうなんですね。今日は遊べないですが次の時に一緒にお話しましょうね」
「どうしました、時子さん？」
「いえ。この子が近くまで来てくれたので、一緒に記念写真を撮りたいと思いまして……」
　時子はそう言って誤魔化すと、近くにいた飼育員さんにお願いして、尚輝先生とペンギンさん達と一緒にスマホで写真を撮って貰った。
「あら……今の飼育員さんからチラシを貰いましたよ。ゆるキャラクリスマスショー、ですって」
「興味ありますか御巫さん？　行ってみましょうか」
「はい……」
　ショーの会場へ向かうにつれて人が増えてきた。
「ここで迷子は困りますね……」
　はぐれないように。時子はそっと尚輝先生のコートの袖を掴んだ。