抜き打ち！　持ち物検査｜リアクション

抜き打ち！　持ち物検査

（今日は、あちこちで検査をやってるんだね……）

　巻き起こる喧噪に我関せずと、黒江ミヤは物憂い視線を周囲に向ける。

　クール・ビューティ。常に冷静なわが道を行く彼女。

　目くじら立ててミヤを呼び止めようとする委員にも、鷹揚に笑って応対する。

　一見すると、危なっかしい様子の不良とも見える彼女。

　だが、彼女は「よくいるワル」になるには、あまりにも冷静、聡明であった。

　己のスタイルは貫くが、無駄に粋がったり、ルールにたてついたりする真似はしない。

「荷物くらいで、そんなにうるさく言うことないじゃん。プライバシーも大事だよ」

　何も突っ込まれるようなことはない。大丈夫。因縁をつけられたら逆に言い負かしてやる。

　そのくらいの十全なプライドを持っている。

「え、あたしも？　まあ別に、構わないけど……」

　委員を子供扱いするように笑い、鞄を取り出して、その中をごそごそとまさぐり――。

（ちょっと待った）

　その眉根が吊り上がった。

　
　さわっただけでもわかる。

（鞄の中のこれは……）

　猫耳ヘアバンド。

（いや、そんなバカな……）

　ミヤの顔が焦燥に彩られる。

（弟が入れたのか？　いや、そんなバカな……）

　奥の方に入れれば、うまくごまかせないか？

　なんとか押し込もうとしても、耳の部分がかさばり、思うように詰め込めない。

　――見られたくない。

　――仮に見られたとしても、これが自分の持ち物だと思われるのは、絶対に嫌だ！

　女性的でか弱い弟と対照的に、ミヤはクールな姿勢を崩さずに生きてきた。

　こんなファンシーグッズが、自分の持ち物だと思われたら――。

（それなら、例えばエロ本持ってるとか思われた方がましだ）

　自分のスタイルを貫くのなら、命さえ惜しくない。

（どうして、こんながっしりしたものが入ってるんだ？

　どうして、今の今まで気づかなかったんだ？）

　冷や汗が溢れてくる。

「どうした、何かもってきたらまずいものでもあるのか？」

「い、いや……」

　狼狽して、風紀委員を見上げるミヤ。

（むしろ、あたりの場合だと、もっとやばいものを持っていると思われるかも……？）

　武器系。ドラッグ系。

　そちらの、法に触れるような代物。

　委員の目も、疑惑に曇ってくる。

（いやむしろ、法に触れる代物のほうが、どれだけいいだろう！）

「それでもいいや」

　ミヤは心を決める。

　不良少女。道を外れた悪人。ダークサイドのアウトロー。

　なんとでも思うがいい。

　あたしは、あたしの生き方を貫く。

「いいや、ダッシュ！」

　叫んで、ミヤは逃走を開始する。

　折も折、桜を追跡してきた風紀委員が、ミヤの正面に走り込んできた。

「ごめん！」

　ミヤは謝り、風紀委員たちをノックアウトして逃げる。

　本人も本意ではない、寝子島不良伝説、その幕開けであった。