抜き打ち！　持ち物検査｜リアクション

抜き打ち！　持ち物検査

（な、な、なななななんであの時の写真集がががががっっっ！！！！）

　水上桜の、声なき絶叫が街路に谺する。

　――はーい、ちょっといいかしら。

　歩道で呼び止められ、桜は振り向いた。

（持ち物検査？）

　委員達と共に現れた北風貴子の申し出に、桜は頷く。

（特に断る理由もないし、変なもの持ち歩いている訳でもない）

　そう思いながら鞄を開く。

　桜の心臓が止まった。

　鞄の奥から、悩ましげな視線で彼女を見つめるのは、まさしく桜自身。

　悩ましげで蠱惑的、男への手練手管を知り抜いた魔性の笑みは、清純な１５の少女のものではあり得ない。

　大理石のように滑らかな肌に絡みつく、艶めかしい光沢のラバーのボンデージは、隠すというよりも拘束することで、桜の未成熟なプロポーションを際立たせ、さらに縛り上げることで桜の未熟な官能を奮い立たせる器具。

　表紙では鎖骨が見えるにとどまっているが、内容は知っている。

「水上桜写真集」

　超常の経緯で作られてしまったその一冊、ひとたび流出すれば人生オワタになる代物。

（どうしてこうなった？）

　全身から、悪い汗が止めどなく噴き出す。

（なんで、こんなものが鞄にあるの！？）

　顔色が赤くなったり青くなったり、紫になったりする。

　様子のおかしい桜に気づき、じりりと包囲網を狭める風紀委員。

　こんなものが出回ったら、「青少年の健全な育成」に重大な悪影響を、

「いまよ、ぴりり。鞄の中をのぞきなさい」

「はい！　鞄の中を見せなさ」

　及ぼした。

　三度凝固したぴりりを見て、いっそう色めきだつ周囲。

　
　まずい。

　風紀委員にとっ捕まるのも困るし、そのあとこんな代物があるとばれれば詰み、さらにツイフェミあたりが見たら大炎上待ったなしの、未来永劫三重の意味で終わってしまう。

「――不審ね」

　貴子の目が、ますます鋭くなる。

　慌てて取り繕うとし、ごまかそうとする。

「鞄を渡しなさい」

「いやっ、こ、これは……」

（もはやこれまで）

　ふいっときびすを返す桜。

　そのまま街路を、一目散に駆けていく。

「逃すかっ！」

　貴子の号令一下、精鋭の風紀委員達が桜を追う。時ならぬ、寝子島一周マラソンの開始だった。