抜き打ち！　持ち物検査｜リアクション

抜き打ち！　持ち物検査

　一同が声のする方を見ると、そこにはスピーカー型ボイスチェンジャーを抱えたネコ番長。
　
　校門の柱に屹然と佇立し、朝日をバックに長い影を伸ばす。

　ちがう。着ぐるみに身をつつんだ旅鴉月詠だ。

「持ち物検査だな？　受けて立たねばなるまい」

　ひらりと飛び降り、一同の前に立つ。

「……何で、そんな格好をしているんだ」

　桐島先生の当然の問に、

「持ち物検査と聞いたからな、あえて衆目を集めるものを着てきた」

　事もなげに答える。

「芸術科の人間は驚きが欲しいのだ。撮ってもいいぞ？」

（芸術科……）

　一同の視線が、萌々子に集まる。

　同じ芸術科の、月詠と萌々子。

　通じ合うものがあるのかもしれない……。

「――それでは、持ち物検査を始めましょう」

　貴子が冷静を装って、月詠に近づこうとすると、

「持ち物検査だな！　よかろう受けねばなるまい！」

　高らかに宣言すると、

「さあこい！」

　黒色で長方形のアジャストケースを肩に背負った。

　細長いケースを砲身にしたロケットランチャーごっこ。
　
　芸術科あるあるだ。

「二つあるから、一緒に構えても良いんだぞ？」

　両肩にキャノン砲を装備すればガンでキャノンなタンクのアイツが顕現。

　びしりと朝の陽光に照らされる威容。

「……肩にあったのでは、検査できないんだが」

●

「うおお……」

　月詠のケースの中から溢れてくるのは、大量の資料。

　教科書類はもとより、旅行雑誌、ファッション雑誌、動物の本……。

「これ全て、芸術の資料なのだな」

　相当貴重な本も、無造作に詰め込まれている。

　月詠の魔術的な直感を支える、多様な資料が其所にあった。

「こ、これを没収――う、うーむ」

　桐島先生が腕を組む。

「線引きが難しいな」

　本来没収対象になるような物品でも、芸術のためという名目なら許される。

　それに泉竜次、若林沙穂といった一癖ある芸術科の講師が、資料を没収されたとあって黙っている訳がない。

　桐島とて、生徒の自由な表現活動を阻害するつもりはない。

「多様なジャンルの作品を作るためには、持ち物にもある程度の自由が認められるべきであるよ」

　そのとき、検査係から悲鳴があがった。

「うわー！」

「おっと、それを見つけたか」

　ぴりりがわなわなと震えながら手にしているのは『人体の描き方講座』。

「老若男女、筋肉やらおっぱいやらの、様々な体型、ポージングの描き方講座」

　へーこれすごい！　と思わずかぶりつきで見る萌々子。

　だがそこに、よこしまな態度はみじんもない。ただただ人体の構造に対する飽くなき探求と、その精巧さに感動する芸術科の感性があるだけ。

「人によっては、エロ本だな。うん」

　風紀委員達、ぐうの音もでない。規制するということは、とりもなおさず規制する側の品格も問われてしまうのだ。

「――さて、もう行ってもいいかい？」

　そう言って立ち去ろうとする月詠。

「ま、待て！　持ち物検査はまだ終わっていない！」

　そうも魔女の口車に乗せられまいと、桐島先生、必死で我に返る。

　その時。

「……私も、検査担当に回るわ」

　ふらりと現れたのは、クールな美少女、現生徒会会計、嘉渡洲稀跡。

　急に現れた、風紀委員サイドの味方。

　果たして、彼女の真意やいかに？

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