月曜日の屋上｜リアクション

月曜日の屋上

　バンドの準備には目もくれず、黙々と化学部の実験を行っていたのは、大田原いいなだ。
　危険な実験のため五十嵐尚輝先生に許可を得たのだが……

「うん…………気をつけてね」
　自分の実験に夢中だった五十嵐からの指導はこれだけだったのだから、本当に許可が得られているのかどうかは、ちょっと怪しい。
　屋上では、実験の危険性がさらに跳ね上がることが起きていた。
　ある人物がいいなに近づいてきたのだ。
「やあやあ。いーなっち、元気かい？　それはなんだい？」
「ボケ彦か……」
　ボケ彦。そう、現れたのは八十八旗信彦だった。
「これか？　これは『てるみっと反応』という実験じゃ」
　そして、いいなによる解説が始まった――

　テルミットとは、「金属の酸化物」と「アルミニウムの粉末」とを混ぜたもののことを言う。
　このテルミットに火を付けると、アルミニウムと金属の酸化物の間で『酸化還元反応』というものが発生し、還元された金属と酸化アルミニウムが生成される。
　これがテルミット反応と呼ばれている。
　テルミット反応の特徴は、非常に激しい爆発反応があり、3000℃もの高温になることだ。
「ふむふむ」
　わかったのかわかってないのか、信彦は渦を巻いている謎の物体が気になっているようだった。
「それは『まぐねしうむりぼん』じゃ」
　テルミットに点火する際は、長いリボン状のマグネシウム、その名も「マグネシウムリボン」というものを適当な長さに切って導火線として使う。
　爆発反応を直接受けないように、ライターなどではなく、導火線を通じて点火することが大切なのだ。
　重要なポイントを整理しよう。
　
　※長いリボン状のマグネシウムリボンを導火線として使う
　※粉末（テルミット）に火がつくと、爆発したり高温だったり、非常に危険。

　もちろん、いいなは気をつけながら実験をしているので、危険なことなど何も起こらないはずだ。
　実際、粉末を混合する比率を少しずつ変えてデータをとるという地道な作業に集中している。大丈夫だ、きっと……！
「ところでボケ彦、何故ここに？」
「よーく聞いてくれた。ふっふっふ。俺が何をしようとしてるか、さあ当ててごらん！」
　と両手を広げてみせるが、右手に水の入ったバケツ、左手には大量のロケット花火。答えるまでもなかった。
「ボケ彦……何故に花火をしようというのじゃ？」
「なんとなくさ。ドーンといこうよ。嫌なことは忘れて、楽しいよ～きっと！」
　いいなは、チラリと信彦を見る。
　おどけて見せる信彦。
　信彦は野暮なことは言わないが、考えていることがあった。
　最近元気の無いいいなを励ますために、何かしてあげたいと。その答えがコレというのは、読者にも意見があるかもしれないが……。
「やれやれじゃ……ならば、久しぶりに笛花火でも打ち上げるかの！」
　いいなは、信彦の気持ちを受け止めた。
「……うん？　ボケ彦、何をしておる？」
「ははは、演出だよ演出！」
　何を企んでいるのか、実験道具を持って、即席バンドの方へと歩いていった。

　遠く北校舎の屋上からレンズ越しに見ていた修は、それが何を意味するか予想していた。
「八十八旗が持っているのは、マグネシウムリボンのようだな。さては……ライブを派手に演出するつもりか？」
　さすがは修というべきか、信彦の行動が単純というべきか……。

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