月曜日の屋上｜リアクション

月曜日の屋上

　――普通なんて吹っ飛ばせ！

　泉竜次先生の教えが浸透しているのか、軽音楽部には、湧き上がる自分の気持ちに正直な生徒が多かった。
　雨寺凛は、その１人だ。
　ふらっとやってきた屋上で、軽音部ではないが、一緒にセッションしたこともある霧生深雪を見かけた。
　深雪はフェンスに寄りかかり、１人で音楽雑誌の『ロックと人』をパラパラとめくっていた。
　月曜日のなんともいえない気だるい空気を吹っ飛ばしたいなー、なんて考えていた。
「深雪センパイ！」
　明るく声をかけてきた凛を見て、いつでも日曜日って感じだな、と思った。
「よお、この前は、な！」
　と小さく頷いて目を合わせる。
「楽しかったですねぇ～。センパイのピアノ、素敵だったなぁ」
「サンキュ。雨寺もよかったぜ」
　あの日のセッションを思い出して、なんだか少し照れ臭い二人だったが、話はここで終わらなかった。
「またいつかやろうぜ」
「おおー、いいですね！　やろうやろう。いつにしますー？」
「いつ？　そうだな……」
　月曜に日曜をぶち込むのも面白いかな、そんなことを思いついた深雪と、うずうずしてきて我慢できなくなった凛は同時に、
「今日！」
　見事に声が重なって、笑い合う二人。
　凛は深雪の雑誌に気づいて、
「センパイ、それって……」
「ああ、『ロックと人』。under　sunnyの特集だな。これでいくか？」
　under　sunnyは、インディーズからじわじわ人気が出てきたツーピースバンドだ。ライブではサポートメンバーもたくさんいるが、基本は２人。まさに凛と深雪にピッタリのバンドだ。
「いいですね！　どの曲でいきますー？」
「そうだな、梅雨の合間だし、これでいくか」
　とバンドのインディーズ時代の名曲といわれるナンバーを指さした。
「おおー、それならいけますよー！　」
「よし、決定だな」
　こうして放課後、屋上でゲリラライブが行われることになった。
　事前に情報が流れたらゲリラライブではないし、教師に見つかって怒られるだろう。二人は黙って準備を進めることにした。
　だが、人の多い昼休みの屋上で大きな声で話していたのは迂闊だろうか、一部の生徒の間で噂が広まり始めていた。

　新聞部の八神修は早速その情報を掴んでいた。
　今日は晴れ間も多いようだからと屋上からの撮影を検討していたところだ。ついでにスクープも撮れるなら、それに越したことはない。
　すれ違った熊吉に、カメラを見せて声をかけた。
「吉田先生。新聞部の八神ですが、放課後、屋上から撮影をしたいんですが」
「撮影？　……好きにしろ。ただし、授業中はダメだ。迷惑行為、危険行為もな」
「もちろんです。自分からは、そのようなことは決して」
「がははは。生徒がみんなお前のようだといいんだがな！　屋上は開放されてるから、特に許可はいらんぞ～」
　そう言い残して去っていった。
　熊吉はしばらくして、ふと立ち止まった。
「自分からは？」
　何か引っかかりを感じた熊脳に、「放課後に屋上」とインプットされてしまった。
　ゲリラライブの未来に暗雲がたちこめてきた……。