月曜日の屋上｜リアクション

月曜日の屋上

　キンコンカンコーン。

　昼休みの屋上は、賑やかだ。
　天気のいい日は、弁当を持参したり購買室で購入したりした生徒たちが昼食を食べにやってくる。
　この日も、あちらこちらで生徒がくつろぎ始めていた。

「あっちが空いてるかな」
　２人の女子生徒とともに、１人の男子生徒がやってきた。
　女子２人と男子１人、数が合っていないのはどういうことだろうか。時空が歪み、世界が崩れているのは、この男子生徒の仕業かもしれない。
　御剣刀がさわやかな笑顔で振り向いた。
　小山内海はにっこり頷いてついていこうとするが、
「あ、えっと……」
　弘明寺能美子は、さりげなく進行を妨げ、
「あちらの方が、いいわ」
　刀が指した方角とは別の、塔屋の裏の一角を指さした。
　刀と海はどういうことかと首をかしげたが、言われるがままについていき、すぐに理解した。
　能美子は塔屋の影に置いてあった箱をあけ、そこからお洒落なシートを取り出すと、ささっと広げた。
「雨上がりで濡れてるかもしれないし、制服が汚れないように」
　食事は雰囲気が大切だ。能美子はシートを箱に入れて、休み時間の前にここまで来て、用意しておいたのだった。
「凄いね、ありがとう」
　刀と海は、能美子の配慮に心打たれ、お礼を言った。
　こうして食事をする場所はもちろん、みんなの心までいい雰囲気に包まれて、昼食が始まった。

　いつもは自分で弁当を作る刀だったが、この日は作ってきていない。
　海の作る弁当を食べることになっているのだ。
　刀が海の料理を食べるのは、これが初めてではない。
　そのときは、決して美味しいとは言えないもので、そのときは正直に「不味い」と言ってしまった。しかし同時に「次に期待する」とも言っていたのだ。
　そう、その「次」が来たのだ。
「さあ、食べさせてもらえるかい」
　刀が促すと、海は大きく頷き、勇気を振り絞って弁当を広げた。
　ごはんとしょうが焼き、卵焼きにポテトサラダ。
　卵焼きがちょっとばかし焦げてはいるが、そしてちょっとばかし形が崩れてはいるが、以前のような危険なオーラは感じなかった。
　刀はポツリと呟いた。
「普通だね」
　一見失礼な感想のように聞こえるが、刀と海にとっては、これが大変な進歩を認める褒め言葉であった。
　一方、お嬢さまの能美子は庶民の味に興味があった。
「これが普通なのね」
　海は小さく頷いた。
　そして、刀が両手を合わせて、食べ始める。
「いただきます！」
　まさに普通を目指して作った料理の味はどうか、その答えが今、出る……！
　海は、その様子を固唾を呑んで見つめた。答えが聞けるまでドキドキと。
　刀は一通り食べて箸を置くと、
「うん、普通だね」
　海の表情がぱあっと明るくなった。
　普通という言葉でも、海にとっては十分褒め言葉であり、嬉しい言葉なのだ。
『よかった　レシピ　どおりに　つくった』
　病気で声が出なくなった海は、スケッチブックにささっと書いてみせた。
　朝早く起きて、レシピをしっかり読んで、努めて落ち着いて作った成果が出た。
　刀はそんな海の笑顔を見ながら食べ続けると、不思議とより美味しく感じるようになっていった。
「うん、普通以上かも。小山内、これ……美味しいよ」
『ありがとう』
「次はもっと美味しくできるかもしれないね。楽しみだよ」
『つぎは　レシピを　こえた　くふうを　してみる』
　危険を察知した刀はにっこり微笑みながらも、
「うん。工夫はしなくていいと思うよ？」
　しっかりと釘を刺しておいた……つもりだったが、海はわかっているのかいないのか、早起きして弁当を作っていたため、眠い目をこすりながらにこにこ笑っていた。次の機会が楽しみである……。
　能美子はというと、海の作った弁当を食べて、再び感心していた。
「なるほど。これが、普通の食事なのね」

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