探偵たちの事件簿　雨宮邸の消えたケーキ｜リアクション

探偵たちの事件簿　雨宮邸の消えたケーキ

（これはもしかして……俊介さん、鸞さん、ゆりさんの三人による共謀なんじゃないか？）

　と言う答えに辿り着いたのは英二だ。
　
（誰が主体なのかは分からないが、あの三人は全員でケーキを食べる事を計画したんだ。そして、遠海さんという存在を使って草太郎さんの意識を逸らした。ただ、罪を擦り付けたいわけじゃないのは全員がアリバイがないようにしている事と遠海さんが犯人であるかのような証拠を残していない事からも分かる）

　ケーキのワンホールを全て平らげるという所業も単独犯でなく複数犯という事ならば、遠海以外にも犯行が可能という事になるので確かにその考えは間違っていない。

（けど、問題はその証拠がないって事だ。……よし、先生に話して関係者を集めてもらおう。きっと、いつものように先生が何か突拍子の無い発言で相手を動揺させて、失言を引き出してくれるに違いない）

　そう。ある程度の道筋を立てるのは英二の仕事だが、そこから仕上げをするのは探偵ののこの仕事なのだ。

「分かったわ！」

　美緒が叫ぶ。何が分かったのかは今の状況ならば一つしかない。それは犯人だ。

「犯人はケーキ屋ね！」

　だが、その発想は中々に突飛なものだった。英二が聞いているとののこ先生が増えたと言ったかもしれない。

（草太郎氏はどんなケーキができたのか楽しみにしてて結局中は確認していなかった。つまり、そもそも最初からケーキは入ってなかったのよ！）

　美緒の推理はこうだ。草太郎氏から注文を受けたケーキ屋の職人は腕によりをかけて凄いケーキを完成させた。しかし、完成したケーキが注文主の要望に答えられているのか不安になったのだ。
　それを確認する為ほんの少しのつもりで試食してみたところ、あまりの美味しさに手が止まらなくなって気が付けば全部食べてしまっていた。
　既に配達の時間は迫っていて、そこでケーキと同じ重さのドライアイスを詰めてごまかした。草太郎がケーキを食べる頃にはドライアイスは消え、食べたのは屋敷の誰かという事になる。
　箱に生クリームをつけておいたのは、恐らく箱の中に確かにケーキがあったという証明の為だろうというのが美緒の考えだ。

（そして、それが上手くいったかどうかを確認する為に樹さんをここに寄越したんだわ）

　樹がどこまで聞いているのかは分からない。もしかしたら屋敷の様子がどうなっているかを確認だけして貰うようにしたのかもしれない。

（ともあれ、樹さんを問い詰めてみればはっきりする筈だわ！）

　ただ、そう推理している美緒は少しだけ引っかかっている事があった。草太郎にケーキの事を確認した時に聞いたのだが、後からちゃんと確認してみるとまるで箱の一部が潰れたのを上手に直したようになっていたというのだ。

（いえ、でもこれで事件は解決よ！）

「ふぅん……なるほど、ね」

　遠海はいつも通りの仕事をしながら密かに探偵達の聞き込みをそれとなく聞いていた。
　情報は何よりの武器。特に正体がバレてはいけない遠海のような食材ハンターにとっては。だから、この程度の事は朝飯前だが、それによって今回の事件、大体の全容が理解できてきていた。
　とは言え、これを行った人物はとてつもなく頭が切れる人物だ。証拠となるものは一切残していないだろう。自分がいつもそうであるように。

（けど、分からないのは一体こんな事をして何になるのかという事よね）

　確かに今はまだ誰が犯人なのかは分かっていない。遠海も仕掛けられた事自体は大体分かったが、犯人は突き止めれていない。だけど、それだけだ。誰かが犯人なのが分かっている以上はこのままでは何の解決もしない。
　だけど、ここまでの事をした人物がこれで済ませるとは思えなかった。きっと最後の仕掛けが残っている筈だ。
　そう考えていると、ゆりがやって来て応接間に全員集まるようにと探偵が呼んでいると言ってきた。

（この段階で集合をかけるなんてね。何か掴んだのかしら？）

　だが、とりあえず行かないという選択肢はない。名探偵とやらのお手並みを拝見しようと応接間へと向かうのだった。

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