ひんやりきらきら、氷彫刻まつり｜リアクション

ひんやりきらきら、氷彫刻まつり

　４

　水上桜は、氷彫刻まつりが行われるという寝子島高校に足を運んだ。
（何か刺激になればいいかな）
　アクセサリー作りが趣味の桜は、心のどこかで常に新しいデザインを求めている。
　最近は部活だったり生徒会の会計になったのでその仕事だったりでアクセサリー作りからやや遠ざかっているけれど、それ自体は別に苦痛ではない。趣味はやらなければならないことではなく、あくまでも、時間があってやりたいと思った時に穏やかな心でやるものだから。
「うわー、とっても綺麗……」
　ヴィーナスの誕生を見上げて、桜は感嘆の息を吐いた。ただの裸の女性の像だと年齢制限がつきそうだが、有名な芸術作品だし、何より美しさしか感じないので問題はない。
「こんなに綺麗に造れるなんて、すごいな……」
　デザインの参考にはならなかったが巨大恵比寿像には笑顔になれたし、ライジング・ドラゴンはかっこよく造形も細かくて、胸が高揚した。
（この大きさだと、一体出来上がるまでにどれくらいかかるんだろう……）
　そして、ドラゴンの隣には、沢山のフローラルアイスが飾られていた。物凄く綺麗でキラキラしていて、ついつい見入ってしまう。
（こんな細かいデザイン、どうやって彫るんだろう……）
　氷像を見ていると、想像が膨らみ、わくわくしてくる。
（私もやってみたいな）
　どうやって造るのか、体感してみたい。確か、講師に教えてもらうことも出来た筈――
　好奇心と共に周囲を見回してみると、作業が可能なだけの距離を開けて３人の講師が生徒に氷の削り方を教えていた。一番年かさでがっしりとした体躯の男性のところがちょうど空き、桜はそこに近付いた。
「すみません、氷彫刻をしてみたいんですけど……」
「……初めてか」
「あ、は、はい」
　削は不愛想な顔で道具セットを貸してくれた。授業で使う彫刻刀よりも全体的に大きかった。ノミだけではなく、ノコギリやハンマーもある。
（こういうのを使うんだ……）
　１本ずつ手に取って物珍し気に見ていると、削が声を掛けてきた。
「まずはノミを持って」
「はい」
　結構気難しそうな、武骨な職人気質に見えたが削は割と親切だった。道具の使い方を丁寧に教えてくれて、初めての桜でも一通りのことが出来るようになった。
　その頃には緊張が解けてリラックスしていた桜は、先程の疑問を彼に訊いてみた。
「あの巨大恵比寿猫像、造るのにどのくらいかかったんですか？」
「……あれなら、１日だ」
「１日？　そんなに早く出来るんですか？」
「あれはシンプルな方だからな。今から何を造るのかは知らんが、あまり凝ったものに挑戦しない方がいい。１日で終わらないからな」
「はい！　分かりました」
　そうして、レクチャーの時間は終わった。

「……出来た、けど……」
　数時間後、桜が造った氷彫刻は『猫と踊る女の子』をモチーフにしたものだった。猫のしっぽは長いのは難しかったから丸くしたりしたのだが、何とも体格のいい像になってしまった。
「初めてだったからかな。微妙かも……」
　けれど、像を造っている間に、これをアクセサリーにしてみたいな、と思うようになっていた。
「家に帰ったら、チャレンジしてみよう」

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