ゲーム世界の外と中｜リアクション

ゲーム世界の外と中

●驚かすことの難しさ

　アイオ・キャンドライトは目を覚ました時、不気味な屋敷の中にいた。

「ここは……どこですの？」

　全体的に薄暗く、見覚えのない壁や置物におろおろしながらどうにか懐中電灯を見つけた。それを点けて周囲を照らすと、室内はボロボロだった。しかし壁に近づいてみると、実物に似た別物という印象を持つ。

　もしかしたら、ここはゲームの中なのではないか。
　アイオはうっすらとその可能性を感じていた。そうならばここから脱出するのが最善だろう。そう思って部屋から出ようとしたときだった。

『ギャアアア！？　ナンデソコニイルノ！？』

　突然頭上から降り注ぐ誰かの叫び声。

「な、なにごとですの……？」

『イヤアアア！？　コッチコナイデエエエ！！』

「……あら、この声」

　最初は驚いたが、どこかで聞いたことのある声だった。

「もしかして、寝子戸アイラン……？」

　アイオも歌配信や歌ってみた動画を投稿しているので、その名前は聞いたことがあった。そしてゲームの中ではないかという可能性は確信に変わった。

（ゲーム配信は配信者のプレイングやリアクションを見たくて視聴者が集まると聞いた事あります）
（ならば驚かす役のアイオがめいっぱい怖がらせて、配信を盛り上げていきますわ！）

　アイオは脱出という当初の目的を横に置いて、驚かす作戦を考える。
　いまアイオは猫の妖怪みたいな姿になっているので、急に現れて大声をだせば効果絶大ではないか。

（でも物陰から飛び出すだけというのも……そうですわ！）

　アイオは懐中電灯で手ごろな宝箱を探し始めた。屋敷のなかには箱がいくつもあり、ちょうど隠れられそうなものを見つけるのは簡単だった。

（いわゆるミミックというやつです。アイテムがあると思って開けたら中からお化けが登場！）

　これならインパクト十分だと頷くと、蓋を閉めて静かに待機する。声を潜めてしばらくすると、誰かの声と足音が聞こえてきた。

(来ましたわ！)

　足音はだんだんと近づき、箱の前に立っている気配がする。
　そして蓋が開かれて、隙間が見えた瞬間に一気に立ち上がって雄たけびを上げる。

「ニ"ャ"ァ"ァ"ァ"ー！」

　アイオが姿を見せた途端、開けた人物はびっくりして尻もちをついた。

（上手くいきましたわ。アイオはこれで……ってどうしましょう？）

　驚かせたのはよかったが、そのあとのことまでアイオは考えていなかった。すると冒険者が箱の中にいるアイオにゆっくり近づいてきて、頭を撫でてきた。

（ちょっと撫でないでください！　もふるのもダメですわ！）

　そんな気持ちはお構いなしに冒険者はもふっている。
　お化けの姿だとほしびとの時よりもふもふ感が増しているようだ。

（怖がられるお化けが癒しになってどうするのですわー！　誰か助けてですわーっ！）

　じたばたするが、なかなか解放してもらえず、その後しばらくもふもふされ続けた。

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