ゲーム世界の外と中｜リアクション

ゲーム世界の外と中

●冷静かつ大胆に

　八神修は気づいた時には見知らぬ建物のなかにいた。
　部屋の一室なのは分かるが、薄暗く、詳細は分からない。

「ここは……どこだ？」

　周囲を見渡しながら頭を回転させる。
　どこかの屋敷のようだが、全体的に古い印象を抱かせる。しかし壁を触ってみると、なにか違和感がある。

「なにか変だな、この壁」

　壁をなぞるように歩き、いちど距離を置いて観察する。よく見ると壁の溝が等間隔で切れている。デザインというより、同じ模様を貼り付けたような形だ。それに建物の古さに対して、コケや埃が見当たらないのも不自然に感じる。

（まだ確信は無いが……もしかしてゲームの世界なんじゃないか？）

　ゲーム制作の画面で、壁の模様をマス目に合わせて作り、それを『壁のマス』に繰り返して置いたという仮定。もしそうだとしたら、この壁にも説明がつく。そして神魂の影響だろうことも想像がついた。

「とにかく出口を探さないと。所持品は……」

　修は自分の持ち物を確認する。
　いまあるのは腕時計と、上着の内ポケットに入っていた折り畳みナイフだけ。

（……心許ないな）

　この場所に漂う不穏な空気は気のせいではない。
　必要な武器や情報を得つつ、脱出しようと部屋の出口へ向かう。万が一に備えて、鍵穴をハンカチで塞いで射出する罠がないか確認してからドアを開けた。

（慎重に行こう）

　部屋を出てから、別の部屋へ入るときも同様に確認を行ってから入室した。そうした地道かつ大胆な探索によってランタンと飾太刀を見つけた。
　ランタンは自分の探索範囲を照らすには十分な明るさ。飾太刀は刃がないものの、打撃武器として使えば有効だろう。それらを携えて探索を続ける。

　修は脳内で探索してきたルートから簡易的なマッピングを行う。もしかしたら敵がいるかもしれないし、まだ見ていない罠の可能性も否めない。それに、時折女性の悲鳴に似た音が屋敷の外から聞こえてくる。これも修の警戒心を強めていた。
　寝子戸アイランが実況中に驚いているだけなのだが、修にはそれを知る術がない。

（あまり一か所に留まるのもよくないな）

　そう思って歩き出したとき、こちらに近づく足音が聞こえた。修は武器を構えて、迫る音に注意を向ける。音の正体が目の前に現れると、修は一瞬目を見開いた。化け物が来るかと思ったら、自分と同じ人間だった。
　警戒しつつも話しかけると、その人物はアランと名乗った。どうやら謎解きに失敗して化け物に追われて逃げてきたようだ。

（俺と同じく迷い込んだか……もしゲームなら元からいる人物かもしれないな）

　修はアランに謎解きの場所に連れて行ってほしいと頼んだ。アランは頷くと、来た道を引き返す。着いた先には意味不明な記号や模様が描かれた球体があった。その下には魔法の鍵が掛けられた本が置いてある。おそらくこの球体を解けば中身を読むことができるだろう。

（溝が入っていてパーツを回せるってことは……何かを完成させるんだろう）

　修は自分の記憶とアランの情報をもとに、パーツを動かして球体を完成させた。すると本の魔法が解けて、中身が読めるようになった。この調子でどんどん謎を解いていき、金の鍵を手に入れた。
　それを玄関に差し込んで開くと、白い光に包まれた。

　次に目を開いたとき、そこはいつもの寝子島だった。

「戻ってこれたみたいだな」

　大きく伸びをしながら、達成感と安堵を覚える。
　緊張していたんだな、と思いつつ爽やかな表情で帰路に着いた。

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