雨の日の探しもの｜リアクション

雨の日の探しもの

◆カエレ？◆

「すまなかったな。もう大丈夫だ」
　修の言葉に、一行は再び歩き始めた。
　上流に行くにつれ、道も川幅もだんだん細くなっていく。

「カエレ！」
　突然聞こえた声に、みんなビクリとした。
　刀が真っ先に身構えてそちらへ視線を向ける……
「あれ？　気配が無い？」
「え？　もしかして……」
　刀と天野は周囲を調べ始める。
　雨に濡れた葉の上に蝸牛が居た。
「これが今の声を？　河童以外にも不思議な存在が居たんだな」
　刀は言い、天野がカタツムリを摘み上げる。
「ふへっ！？　しゃ、喋った！　なんか言った！」
　澄佳は驚く。
「これも、ろっこんてやつ？　この島は不思議でいっぱいだね……」
　河童も本当にいるのかな、という気分になる。
「まあ、可愛らしい……ねえ、それ私にちょうだい」
　冴来はにっこり可愛らしく微笑み、天野にお願いをする。
　天野は戸惑っているようだ。
　冴来のろっこんは、お願いをした異性に「願いを叶えてあげたい」という衝動を芽生えさせる。
　だが。
「カエレ？　警告？　……カッパが危険ってこと？」
　円が難しい顔になり、カタツムリに問いかける。
「キミは何者？」
　だがカタツムリは、
「カエレ！」
　と繰り返す。
「ねえ、美弥子ちゃん、カッパは思ってたより危険なのかも？」
　警戒する円。
「河童は子供と相撲を取って川へ引きずり込んだりするらしい」
　刀は本で調べた情報を話す。
　カケルとケンの顔色が変わった。
　そんなことはお構いなしに、冴来はカタツムリに話しかける。
「ねえ、もっとほかのお話をして。私と一緒に行きましょう」
「カエラナイト……！」
　カタツムリの口調が変わった。
「カッパはカタツムリの近くにいるんだ。来るぞ……」
　カケルが川を見つめる。
　
　川に、波紋が広がった。
　茶色の流れの中、草の中に丸く平べったい何かが浮かび上がった、と見るや。
　それが持ち上がり、灰色に近い緑の顔が現れた。
　少し離れ気味な二つの目がきょときょとと落ち着きなく動く。
「カッパ……？」
　丸く平べったいものは頭の皿だったのだ。
「ほ、ほんとにカッパ？！」
　近づこうとしたケンを円が止める。
「ケンくん、前に出過ぎないでね。一応先ずは様子見を。
いい子か、悪い子かそこを判断しないと」
「ミニカー返せよ……」
　さっきの勢いはどこへやら、さっと円の後ろに隠れたカケルが顔だけ出して小声で言う。
「ボクは桜庭円、キミの名前は？」
　
　河童が嘴を開いた。
「……アマタロウ」
　人間の言葉だが、ぎこちない。カエルのゲロゲロ鳴く声に近いようだ。
「アマタロウくん？　ね、一緒に遊ばない？」
　天野が声をかけた。
「は、はじめまして。大丈夫だよ私は河童さんを傷つけないよ」
　クマのぬいぐるみを抱きしめて、まほろが言った。
　河童の表情はよくわからないが、なんとなく力が抜けた様子が見えた。
「玩具はないけど、お菓子はあるよ。真辺に分けてあげようと思ってたやつ。駄菓子だけれど」
　天野がカバンから駄菓子を取り出す。
「お邪魔してます。あの、ちょっと探し物で来ました」
　澄佳が丁寧に言い、お菓子を取り出す。
「えっと、こんにちは。カケルのミニカーをキュウリと交換してもらえないだろうか？
それが駄目なら相撲で勝負だ！　俺が勝ったらミニカーを返してもらおう」
　刀が言う。
「俺からも頼む。ミニカーを返してやってくれ」
　修はミネラル水ときゅうりを取り出す。
　アマタロウはきょとんとしているように見えた。
「ミニカー……？　コナイダオイテッタ、オモチャ？」
「置いていった？　持ってかれた、んじゃないんだ？」
　澄佳が首をかしげる。
「あのとき、慌ててたから……置いて逃げちゃったんだ」
　先程の威勢はどこへやら、カケルは俯く。
「一人で取りにきたくなかったんだ」