＜天穹＞埋蔵金と【影】との対話｜リアクション

＜天穹＞埋蔵金と【影】との対話

＞第七幕：志波武道

「埋蔵金ってまじかー宝探しわっくわく☆」と心を弾ませていた武道は、遺跡の中を歩いていた。いや、そのつもりだった。
　急に仲間の気配が消え、我に返りあたりを見渡すが、誰もいない。ただ、武道を刺すような『敵意』がどこからともなく向けられている。
「何だこの感じ……みんなはどこに消えた！？」
　耳が痛くなるほどの静寂の中、彼は眼鏡を正しその殺気を辿るも足取りは重い。何故だろう、とても引き返したくなる。
（この先に、誰かいる。それも、俺に敵意を持つ誰かが）
　嫌な気持ちを押し殺し、『敵意』を辿ったその先にいたのは、右の袖をまくり、メガネを外し、卑屈な笑顔を浮かべている自分だった。
（あぁ、そうか。ここに行きたくない理由が分かった。こいつは……）
　もう一人の自分が、歩み寄ってくる。武道は、動けなくなり、その様子を見つめるしかない。眼をそらしたい。逃げたいのに動けない。何故ならば、相手の正体を悟ってしまったから。武道は喉の奥から変な声が出そうになるのを、どうにか堪えていた。
（苦境でも笑顔でいる事を、自己犠牲を、『誰も傷つけたくない』という【甘さ】を否定する存在だ……）
　ニタニタ笑いの『もう一人の武道』は、いつの間にか眼前に迫り、武道の腕を掴んでいた。
『はは、苦しかったんだよね？　そんなに顔色悪くしてさ？』
　友を心配するような声色に、冷たい何かが混じっている。恐怖から僅かに呻き声を漏らす武道の肩を叩き、彼はそっと武道の耳元で言った。
『疲れただろう？　楽になりたいんじゃないか？』

　――辛いなら、代わってやるよ

　僅かな時間なのに、武道の心は疲弊していた。その言葉が、妙に甘く聞こえるほどに。

（でも……）
　それ以上の何かが、武道の中に吹き荒れる。ぐっ、と唇をかみしめた武道は、どうにかこうにか息を吸う。恐怖に強張った思考が、僅かな緩みから正常に動きだし、武道の中に温かいものを流していく。
「笑うのが辛い事態にも何度かぶち当たってさ。漸く……漸く、少しだけわかったんだ」
　武道は、もう一度深呼吸をする。まだ膝が震えているが、それでもさっきよりも話せるな、と武道の心が笑う。
「君は、俺の在り方全てを否定してるんじゃない。俺の身を守る為なんだな……ってさ」
　認めたくないけど、ほんの少し、ほんのちょっぴりではあるが、武道はそんな風に『影』を理解した。だから、いつもの通りに明るい笑顔を溢す。……と、『もう一人の武道』は、今までとは反対にすごく苦々しい顔をして、武道を軽く突き飛ばした。
『そうかい』
　軽く舌打ちした『もう一人の武道』は、音もなく泡のように消える。だが、次の瞬間には、白い布が沢山散らかされた部屋にいた。
「……俺もあんな顔ができるってことだよな？　ツンデレ？　俺と同じ顔で？　ヤダー♪」
　衝動からか、重い身体のまま普段の調子で怖がるふりをする武道。でも、確かに肌から伝わった苛立ちは、武道の心をかなり消耗させていた。
「ふぅ……、行かなくちゃな」
　武道は、かなり重い身体を引きずるように、歩き出した。

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