なんてことをなさる！｜リアクション

なんてことをなさる！

●だれかさんの気まぐれ
　舞台を校舎内にもどして、こちらの廊下では逆巻がせっせと働いています。
　大半の荷物を猿から取り戻したまではいいのですが、名札のないものも多く、こうやって持ち主さがしをしているのです。
「どうやってこんなに持ち運んだんだろ」
　途中で袋に足をひっかけ、そのまま荷物が増えてったのでしょうか。取り返した荷物の中には、猿が集めるとは考えられないものも多々あります。
　たまたま通りかかった虹村も、居合わせた女子から事情を聞いて手伝いはじめました。
　よかった、さっきのダメージから立ち直れたんですね。
　ここで彼は一冊のノートをひろいあげました。
　しっかり紐で閉じられていることから大事なものだとは思うのですが、ノートは傷みがはげしく、このまま渡しては持ち主もがっかりするでしょう。
「誰のものか知らないけど、これもついでってことで」
　ほかの生徒の目をぬすみ、虹村は手持ちの布でノートをくるみます。
　するとどうでしょう。布の表面に傷がうかんで細切れになり、中から傷ひとつないノートが出てきたのです。
　さりげなくノートを元の場所にもどし、つづいて他のものも『修理』しようと手にとったところで肩をがっしり掴まれる虹村。
「や、悪気はないぜ、ホント。ただ俺は、持ち主に返したら喜ぶかなって、お願いだから聞いてくれー！」
　ずるずると連行される虹村くん。うっかりとはいえ、女の子の着替えを手にとってたら弁解のしようがありませんよね。あ、本当に悪気はないんですよ！
　入れ替わるようにしてここを訪れた常葉は、自分のさがしている帳簿のことをたずねます。
「君の帳簿？　そこにあるの、もしかして君の？」
　ノートを拾い、おそるおそる開いて中身を確認します。間違いありません。
「よかった、無事で……！　これをなくしてたら、私、わたし……！」
　言葉につまって何度も頭をさげる常葉に、僕が見つけたんじゃないけど、と言いそびれる逆巻。
　ここで逆巻は、常葉の手に見覚えのあるメガネがにぎられているのに気がつきます。
「……そのメガネ、どこで？」
「これ、あなたのものですか？　猿が走り去ったあとに落ちていたので、拾って綺麗にしておきました」
　メガネは確かに逆巻のもの。
　レンズに傷がなかったのは不幸中の幸い、フレームのゆがみも調整すればまたかけられるでしょう。
　こうして紛失物は元の持ち主のもとへ、すこしずつ返却されていったのでした。
　ちなみにこの帳簿、もとからあった傷まで消えているのに常葉が気づくのは帰宅してからのこと。
　世の中、不思議なこともあるものですね。

このページにイラストを設定する