なんてことをなさる！｜リアクション

なんてことをなさる！

●こっちはまかせて！
　そういえば、先ほど吉田先生が救出にむかった生徒はどうなったでしょうか。
　じつはちゃんと無事です。だってほら、ピンピンしてますから。
　少し時間を巻き戻してみましょう。
　屋上からの景色を見わたして、女子生徒――レイラは視界良好と胸をはりました。
　ここならよく聞こえるでしょう。
　レイラは柵から身を乗り出し、ありったけの声で叫びました。
「ヘルプミー！　ティーチャー・ベアー！」
　あわてた先生が校舎に入ったのを見届けて、レイラも移動を開始します。
　狙うは先生が使うのと逆側の階段。
　誰も見てないのをいいことに、踊り場から下の階へ、レイラはとーんと飛ぶように駆けおります。
「ここは任せて先へゴー、シンガリはクールなジャパニーズ・カルチャーね！」
　正確にいえばそれはシンガリじゃないのですが、彼女に対してはつっこむだけ無駄でしょう。
　やがて元の玄関前にたどりついたレイラは、あっけにとられる一同を尻目に屋上へむけて手を振ります。
　そこにはたった今必死で屋上へあがったばかりの吉田先生が。
「おーい、ここで落っこちそうになってた生徒を知らないかー？」
「しりませーん！」
　戻ってきた先生はぶすっとした顔でレイラを見ますが、当の本人はどこ吹く風。
「それで、先生、なんの話でしたっけ」
「ん？　いや、とっさには思い出せんが、お前のこれは没収というのは変わらん」
　そういって先生は猫島のヒーローカードをさっと取り上げてしまいます。
　ああっ、そんな。けれど反応をみる分に、先生は主題を忘れているようす。
　このまま押しきれば、ごまかせるかもしれません。
「それより先生！　こちらのタカトリ先輩が、チャリティーイベントを開くとききました！」
「なんだって！？」
　突然話をふられて鷹取がすっとんきょうな声をあげますが、いいからあわせてと無言の圧力。
「絵を展示して、募金をつのって、子どもたちのために寄付するそうデス。いい話だと思わない？」
　これらは口から出まかせのウソなのですが、この話には蓮も食いつきました。
「それは妙案です。ですが一回の寄付では継続的な支援ができません。もっと根本的な……賛同者をあつめて基金を設立するのもひとつのやり方ですね」
　当人をさしおいてふくらむ話に鷹取は冷や汗がでるばかり。ですがこの話、先生の関心を引くにはじゅうぶんでした。
「そうか、お前がそこまで考えとるとは思わなかった」
「でしょ？　だからわたしもヒトハダ脱ごうと思ったの。絵のモデルとして、ヒトハダ……」
「このバカタコがっ！」
　レイラ、一言だけ余計でした。
「よりにもよって人助けの場で、自分を粗末にあつかうヤツがあるかっ！」
　そう、吉田さんは教師。冗談が通じないと言われようとも、教え子のためにならないことは見逃しません。
「お前たちの話がどこまで本気かはともかくだ、指導の必要があるとみた。以降口答えはゆるさん、黙ってこい！」
　どうやら、これ以上は引き止められなさそうです。
「……これでよかったのかなあ」
　猫島は不安そうでしたが、大丈夫とばかりにレイラはウインク。
　時間かせぎはこれで十分。あとは任せましょう！

このページにイラストを設定する