ある昼休み。北校舎の玄関前で
鷹取 洋二が固まっていました。
劇画並のショックな表情に、そり返って空を見上げる彫刻ばりのポージング。
たいへんな事件があったんだ! と全身でアピールする彼のまわりで、ひそひそ声が聞こえます。
「購買で買ったパンをひったくられたんだって」
「えーっ、何それひどい」
気の毒ですが、犯人がわからないことにはどうしようもありません。
誰にとられたのかを尋ねたところ、彼は震えた声で答えました。
「……猿だ。猿にとられた」
「サル!?」
犯人は猿。人間ではなく犬猫でもなく、猿。
ちょっと意外な犯人に驚きながらも、集まった生徒たちは思い出します。
そういえば、北側の敷地を野生動物がうろついてるって聞いたような。
一頭だけだった、お昼ごろに見かける、情報が集まるにつれて被害の告白も出てきます。
「あたしお弁当とられたー」
「練習始めようとしたらグローブ散らかってたんだけど」
「着替え中に更衣室のぞかれた」
「買ったばかりのリップクリームかじられてた」
次々とあばかれる悪事。
どこまでが猿のしわざかはともかく、イタズラは日に日にエスカレートしているような……?
そのとき、大変だーと部室棟の方から声がしました。
さっき胸騒ぎがするといって確かめにいった生徒の声です。
「部室が荒らされた! 棚も、備品も、隠してたお菓子も、ひっかきまわされてメチャクチャだ!」
サーッと血の気が引くのを何人かが感じました。
もしこのまま放課後をむかえれば、この惨状が明るみに出ることは避けられません。
持ち込み禁止のアレやコレが、顧問の先生にみつかったりしたら……。
「行くんだ、君たち」
声に振り返ると、そこにはさっきまで微動だにしなかった鷹取君。
普段は余裕たっぷりな彼の瞳に、この日は真剣な光が宿っていました。
「先生の手を借りたくないなら、僕がここで引き止めよう。こんな春の日に、部活動停止なんてニュースは聞きたくないからね。さあ、急いで!」
稼いでもらった時間を無駄にはできません。
隠蔽工作という使命を抱いて、一部の生徒が矢のように走っていきました。
一方こちら、早めにお昼を終えた体育教師の
吉田 熊吉先生。
見回りをかねてジョギングをしているようです。
校舎をぐるっと一周した時、吉田先生の視界に生徒たちの姿が映りました。
「ん? あいつら何を騒いでるんだ?」
先生が様子をうかがっていると、何人かの生徒が走り去っていきます。
どんなに怖がられても吉田さんは教師。
大事な教え子にトラブル発生とあっては放っておけません。
「なーんか怪しいな……どれ、ひとつ吐き出させてやるか」
のしのしと歩いていく頼もしい先生。
鷹取君も近づいてくる先生に気づいたようです。
「よりによって鬼の熊吉だと!? やるしかないのか……」
さてこの騒ぎ、一体これからどうなってしまうのでしょう。
ところでいま、すばしっこい何かが二人の横を走っていったような?
はじめまして! マスターの詩帆ミチルと申します。
初のシナリオはコメディタッチのドタバタ劇。
マジメに動いたり不真面目に遊んだり、思い思いの活躍を楽しんでいただければ幸いです。
シナリオを楽しむ上で、参考になりそうな情報を以下にまとめておきます。
・舞台
寝子高の昼休み。やんちゃなお猿さんが学校の敷地内で次々とおイタをしかけます。
時間は昼休みがおわるまでの40分前後。
捕まえようと作戦をねったり、トラブル解決にはしったり、
キャラクター各自がもつ「自分らしさ」を演出してみてください。
なお、捕まったあとの猿の処遇について希望があればご提案ください。
・猿のイタズラについて
イタズラが発覚したのは部室棟だけとはかぎりません。
こんなことをされたら困るなーというイタズラを捏造すれば、
部活動に縁がない方も楽しんでいただけると思います。
サンプルアクションの2番目を参考に、
イタズラの中身とキャラクター様の反応を書いていただければ、
きっとそれに近いハプニングが起こるでしょう。猿ですから!
(文章に書き表せないような内容についてはマスタリング対象となります)
・スタート地点
上の文章は北校舎前からはじまっていますが、
実際のスタート地点は変えていただいて構いません。
何も事情を知らないまま騒ぎに巻き込まれた、などもOKです。
・その他
冒頭で出てきた鷹取 洋二君は、30秒ほどで皆様の行き先を白状します。
ほうっておくと熊吉先生が追いかけてきそうなので、
時間稼ぎにまわってもいいよ! という方も歓迎いたします。
ろっこんの使用はありです、が、発動するかは状況しだいです。
皆様の個性あふれるアクション、お待ちしております!