なんてことをなさる！｜リアクション

なんてことをなさる！

●部活を死守せよ！
　一方、北校舎前では残った生徒たちへと吉田先生がじりじり距離をつめています。
　部室が片づくまでここで足止めをしたいところですが、この場を任されたはずの鷹取は足がガクガク震えています。
「鷹取先輩、何があったんです？」
　さっき来たばかりの猫島寝太郎、説明を途中からしか聞けなかった彼にはいまひとつ事態が飲みこめません。質問がてら、鷹取のポーズもなんとなくまねっこ。
「ああ、ちょうどいいところに。あまり大声では言えないんだが、盗難騒ぎがあってね」
「それはいけない。犯人はわかってるんですか？」
　悩ましく頭をかかえて腰を90度ひねる鷹取。
　同じように腰をひねろうとして60度あたりでゴキッとなる猫島。
「誤解を解いておくが、犯人は生徒じゃない」
「ザッツライト、いたずらモンキーが今回のホシね！」
　シャキーンと人さし指立ててレイラ・トンプソン登場。
　いつから話にまざっていたのかは乙女のトップシークレットだそうです。
「小声で言いマスガ、部室が荒らされてたと聞きマシタ。このまま先生に見つかると寝子高ハイスクールのフレンズ、大ピンチ。だからウィードヘッド先輩、ここで足止めしてマス」
「ウィ、ウィードヘッ？」
「ワカメ頭」
「ああ！」
　それで理解されるのもどうなんでしょう。いや、鷹取も髪をかきあげなくていいから。
「しかしそれなら、ここが粘りどころですねー。駄菓子についてたこのカードあげますから、これでやる気出してください」
「そのカードはもしや！」
　猫島がとりだしたのは燦然とかがやくヒーローのカード、どうやらレア物の様子。
　しかし鷹取がぐりりっと180度振り返ったものですから、猫島も律儀に動きをまねっこ。
　いま、グギッといやな音がしたような。
　置いてきぼりをくらっていた吉田先生、ここでとうとう痺れをきらします。
「何をこそこそやっとる！　それと猫島、そういうモンは持ち込み禁止だ。没収する！」
「お待ちください、吉田先生」
　すすっと歩み出たのは森蓮。
「寝子高敷地内に猿が出没しています。こちらの三人は突然のことで、先生にどう協力を仰げばいいか悩んでいるのだと思います」
　一度はツッパリ制裁を心に決めた先生でしたが、ものの頼み方を心得ている蓮の姿に思い直します。
「なんだ、そういうことか。警察のほうにかけあってくるから、そこで待ってなさい」
　お願いしますと頭を下げる蓮。しかし、思慮深い彼はそれだけでは気がすみませんでした。
「先生。今回の件ですが、必ずしも警察の力で解決できるとは限りません」
「なにが言いたいんだ？」
「たとえば」
　山から猿がおりてきた背景に島の開発が関わっている可能性。
　生活圏をおびやかしているのなら、今後も似たような事件が起きるかもしれないという話。
　年間の降雨量、山の木の枯れ具合、などなど……。
　蓮があげる話はほとんどがキリのないものばかり。
　吉田先生も話を区切ろうとするものの、とうとう最後まで聞いてしまい、その隙にレイラが姿を消したことに誰も気がつきません。
「よって私は責任追及や罪人探しに終わることなく、全員が納得する解決策をみつけたいのです」
「……お前の話を聞いてると、全てのできごとが地球規模の問題になりかねんのだが」
「なるほど。地球に住む全人類で考えられれば素敵ですね」
　軽く頭をかかえる吉田先生。どうやら強引に話を切るしかなさそうです。
「そういった話はまた今度だ！　俺はこれから電話をかけてくる。鷹取に猫島、お前らもついてこい！」
　職員室に連れ去らんとした、その時でした。
「オーマイガッ！　ティーチャーベアー、ヘルプミー！」
　叫び声に頭上を見あげれば、屋上に人影らしきもの。大変、今にも落っこちそうです！
　青ざめた吉田先生が校舎の屋上めざして走り出します。
　はたして間に合うのでしょうか！

このページにイラストを設定する