欲望の果てに望むものは｜リアクション

欲望の果てに望むものは

●尻尾は誰だ

＜ステッラ・デッラ・コリーナ＞

　ふくよかコックが提供する美味しい料理に水上桜、橘明里、山田勘三郎は夢中になっている。
　久保田美和は獅子唐ケンジの計らいでお部屋でスヤスヤ。
　メイド風ウェイトレスはミーツェ・Ｍ・フェリスのぷにぷに＆もふもふ攻撃に夢中になっている。
　そして、七夜あおい激似のツインテールパテシエは。

　八神修の食べる手が止まらない中、水守流と鴻上彰尋がパテシエの前に立った。ビシリと流がパテシエに指さす。
「お前！　食べるって事をバカにしてるのか？！　美味しくない物を食べたいと思わせるなんて……」
「ちょ、ちょ、ストップ」
　食に対する情熱が溢れ、つい掴みかかりそうになる流を押しとどめ、彰尋はパテシエからケーキを一皿貰うと、穏やかに彼女に問いかけた。
「パテシエさんはお腹空かないんですか？」
「え、私？」
　パテシエはきょとんとしたが、ふふとすぐに笑った。
「そうなんですよねー。何かお腹空きますよね！　私、実はさっきからヴィッフェでちょこちょこつまんじゃって♪」
　唐揚げも美味しいし、ハンバーグも絶品だし。パテシエは嬉しそうに言うと、
「何だかまたお腹空いちゃった」
とケーキを置いて料理を取りに行き、戻ってくるとバクバクと彰尋達の目の前で食べ始めた。
　あっけに取られる彰尋達。しかし、彰尋はすぐに気が付いた。手にしていた皿からケーキを１口切り分け、フォークに載せて彼女の口元に差し出した。
「そんなにお腹が空いているなら、ケーキも一口どうですか？　とっても美味しいんですよ？」
「ありがとう、でもいいです。料理はいっぱいあるし」
　パテシエは顔も上げずに答える。これに流はキレた。
「お前！　自分の作った物を自分で食わないなんて何事だ！　提供する以上、責任ってものがあるだろう！」
「……責任？」
　ゆらり、とパテシエが立ち上がった。
「責任なんかある訳ないでしょ？　―――そんな不味い物食べるくらいなら正体出しちゃおうかな」
　不敵に微笑むパテシエ。その尻からは、いつの間にか尻尾が現れていた。
　息を呑む彰尋と流。そこにガシャン！　と机にフォークを叩き付ける音。修が凄い形相で立ち上がり、パテシエを睨み付けた。
「食べ物というのは愛があるから美味しいんだ。その愛を味あう事もさせずに食べさせるなんて万死に値する！」
「お、いい事言った！」
　流がやんやと手を叩く。パテシエは口の端を上げながら言った。
「だから、どうするの？」
「お前の尻尾を切り離す！」
　ばっとパテシエに掴みかかる修。しかしパテシエはとん、と軽く宙に舞った。
「ここは潮時かな？」
　そのまま着地して逃げようとするパテシエ。しかしそうはいかなかった。
「【分解】！」
　修がろっこんを発動する。着地した床が崩れ、パテシエはバランスを失って倒れた。
「食をバカにする奴は逃がさねぇぞ！」
　すかさず流がパテシエを押さえつける。組み伏されたパテシエに、彰尋は絶対零度の笑顔を見せた。
「その姿で好き勝手やられるのは、非常に腹が立つんですよね」
「さあ、尻尾を抜くぞ！」
　修が駆け寄ってくる。３人が力を合わせて尻尾を引っ張ると、スポン！　と綺麗に尻尾が取れ、同時にツインテールパテシエの姿は霞のように消えてしまった。
　尻尾はしばらくじたじた３人の手の中で暴れていたが、やがて力が吸い取られたようにしおしおと大人しくなった。

　ほうっと安堵の息をつく３人。尻尾に注意を払いながらも、お互いの健闘を称えた。