欲望の果てに望むものは｜リアクション

欲望の果てに望むものは

【島岡雪乃】
　
　普段はおっとりほわほわん。しかし一旦ハンドルを握れば危険人物に早変わり。そんな雪乃がトゲトゲで覆われた特殊オフロード車を手に入れてしまった！
　雪乃が九夜山の裾野を木々をなぎ倒しながら走りまくる！

「えーっと、私の武器は小型のハンマー？」
　細身のハンマーを持ち、首を傾げるのは三夜深夜子だ。手にしているハンマーは、先端に円錐の小さな突起がついたもの。いわゆる車からの緊急脱出用のハンマーだ。
「これって車がなかったら意味ない……」
　口を小さく尖らす深夜子だが、そこに爆音と共にどでかい特殊オフロード車が現れた。中には完全にイッてしまっている、雪乃の姿。裾野の荒れ地など物ともせず、深夜子に向かってくる。
「はは～ん、なーるほど」
　何だか体も軽いし高揚感も半端ない。何もかも滅茶苦茶にしてやりたい気もするけど……やっぱり頑張りますか、寝子島のために。
　深夜子は迫り来るオフロード車にハンマーを構えた。

　凶器のようなトゲのあるオフロード車。チャンスは一瞬。
　深夜子は暴走車が近付くとひらりと横に身を躱す。そしてその助手席の窓に向かって飛び上がりながらハンマーを叩き付けた。
　ビシッ！　見事にヒビが入り、瞬間ガラスが砕け散る。割れた窓から雪乃が悪態をつく声が聞こえた。
（よし！）
　オフロード車は離れた所で一旦止まると、すかさず方向転換をする。それを待たずに深夜子は走り出していた。
　また急加速をするオフロード車。それと深夜子がサイドミラーにしがみつくのは同時だった。
「はぁい！　爆走中にごめんなさいねー？」
　驚愕する雪乃を尻目に、深夜子はするりとガラスのなくなった窓から車内に侵入した。
「こんにちは、島岡さん」
　髪を靡かせながら深夜子は雪乃に微笑みかける。雪乃は唾を飛ばして喚き立てた。
「うるせぇ！　勝手に人の車に乗り込んでんじゃねぇ！　下りろや！　ひき殺してやるぜ！」
　しかし汚い言葉にも深夜子はひるまず微笑み続ける。そう、彼女はろっこん【彼の名を見知る炯眼】を発動していたのだ。
（何か取り憑いてるなら、憑依先と同姓同名なわけないわよねー？）
　目の前の人物の名前が頭に思い浮かぶ。深夜子は目を見開いた。
「あなたは……」
　と同時に。
「くそっ、前が見えねぇっ！」
　雪乃の叫び声。それにつられて深夜子が車の前方を見る。そこには深い霧が広がる。ようするに、その先は三夜湖で。
「え、ちょっと待って～～～？！？」
　深夜子と揉めていた雪乃がハンドル操作を怠ったのだ。オフロード車はそのまま深夜子ならぬ三夜湖にダーイブ！　深夜子の声が響いた。
「良い子はマネしちゃ駄目だからねー！」