欲望の果てに望むものは｜リアクション

欲望の果てに望むものは

【クレイグ・ドナハ】

　頼れる鍛冶屋の親父、クレイグ･ドナハ。そのハンマーは、様々な武器を作り出すためのものだったのに。
　今は全てを破壊するためのハンマー。星幽塔から来た怪力親父は、九夜山の全てを破壊し尽くす。

「ガーーーッ！！！」
　雄叫びが九夜山に響く。狂ったように木を、岩を破壊するのは、でっかいハンマーを持ったクレイグ。その様子を遠く木々の間に隠れながら伺う人影があった。……いや、獣人だ。
　それは、万条幸次がろっこん【猫チェンジ】で猫の獣人に変化した姿。それは、猫のハンターとしての能力を最大限に引き出した姿だ。この姿になった幸次にもう人間の面影はない。それでも、この姿でしかやれないことがある。
（この世界……戦わないと死ぬかもしれない）
　普段はのんびり屋の彼だが、今は闘争心を持って自身のアサルトライフルを握りしめた。
　―――この猫化した手でも引き金くらいは引ける。
「いくぞ」
　幸次ははやる闘争心にその黄色くなった瞳をらんらんと輝かせながら、カチャリとライフルを構えた。

　―――タタタタタンッ！
　連射音と共に弾がクレイグに向かって放たれる。狙うはクレイグ―――の持っているハンマー。
　引き金を引くと同時に幸次はクレイグに向かって走り出していた。１回で当たるなんて思ってない。俺の本当の武器は、この獣人化した体だ。
　驚き、闇雲に巨大ハンマーを振り回すクレイグ。しかしあっという間に距離を詰めた幸次は再びアサルトライフルを連射した。
　今度は見事にハンマーに当たる。ハンマーを貫通することはなかったが、連射された１弾がクレイグの手に当たり、彼は呻きながらハンマーを落とした。
「今だっ！」
　幸次はクレイグの前に飛び出し、その爪をお見舞いしようとする。しかしクレイグは吼えながら負傷していない方の手でハンマーを取り、振り回した。
（まずいっ）
　幸次は空中で身を捩らせハンマー攻撃を避ける。しかし直撃は避けられたがハンマーは肩を掠め、その衝撃で幸次は地面に転がり落ちた。
「～～～～っっ！！！」
　激痛に幸次は地べたでその毛むくじゃらの顔を歪める。骨が砕けたかもしれない。それでも幸次はすぐに体を起こした。―――まだ腕１本だ。諦めない。
　幸次は突進してくるクレイグをぎりぎりまで引き寄せ、振り下ろされるハンマーを避けながら、跳んだ。
　跳びながらその爪でクレイグの顔面を引っ掻く。思わず目をつぶったクレイグの両肩に乗ると、鋭い牙でハンマーを持つ腕を思い切り噛んだ。
「ギャッ！」
　ハンマーを落とすクレイグ。幸次は既にとん、と地面に下り、その反動で飛び出していた。
「これで決める！」
　俊敏な猫獣人の渾身の猫パンチ！　その重い一撃はクレイグの顔面に見事にヒットし、クレイグは大の字になって伸びてしまった。
「は……やった……」
　全ての力を使い切り、人の姿に戻った幸次は、糸が切れたようにぱたんと倒れ込んだ。