【Epirogue】

　戦いが終わると、近くに隠れていた洋子ちゃんも皆のもとに駆けつけました。
「皆、よくやったぞ！」
　相変わらず無駄に偉そうでしたが、その表情は皆が無事でいたことにホッとしているようにも見えます。
　シルエットが倒されたことで、子供達の視線は自然とステージの上に向けられました。
「さあ、黒いメイジンダーは倒したぞ！　いい加減に姿を見せるんだ！」
　ステージの上ではMEIJINがアドリブでそれっぽい台詞を叫びます。
『――なるほど。期待以上だ。どうやら私は少し君達のことを見くびっていたようだ』
　と、そのとき、再びスピーカーからKの声が響きました。
　Kは、ステージの上のMEIJINはガン無視で、シルエットを倒したギアマスター達を褒めたたえるような口調で続けます。
「そうさ！　皆の勇気とギアの力を合わされば、倒せない敵はいないんだ！」
　MEIJINの言葉に子供達が「わー！」と盛り上がります。
『認めよう。君達はなかなか優秀なギアマスターであるようだ。よって、私からの試験は今回で終了とする』
　KはやはりMEIJINをスルーして続けます。
「…………？」
　そろそろアドリブが辛くなってきたのか、MEIJINが小さく首を傾げてスタッフ席を振り返ります。
　もちろんそこにカンペもフリップもなく、MEIJINはますます首を深く傾げることに。
『今後も、ユグドラシルの連中がつまらぬ事件を起こすだろうが、君達ならば乗り越えられるだろう。私はいましばらく君達の戦いぶりを見守ることとしよう』
　一方で、Kはもはや完全にMEIJINはそっちのけで一人で話を進め、一人で話を終えようとします。
「待て。お前の目的は何だ？　なぜこんな事件を起こした？」
　翔くんの声がKを呼び止めます。
「私も気になるです。そうですね。たとえば、私達を鍛えようとしているとか、いかがですか？」
　姫さんも、推測を例に出し、Kの反応を探るような問いを投げかけます。
　すると、会場の子供達も謎の声の主の正体が気になるのか、そのときばかりは公園全体がしんと静まり返りました。
『……質問を許したおぼえはないが』
　Kはあくまでも傲岸な態度を崩さず、しかし会話を打ち切ることもせずに続けます。
『まあいい。戯れに答えよう。目的は何か、と言ったか？　私の目的はこの手で『神を創る』ことだ』
「……なに？」
　あまりに突拍子もない答えに翔くんは言葉を失います。
『無論、人間のような神の出来損ないの模倣ではない。完全な、真なる神を、この手で創り上げる。ギアという「器」に神の魂を封じ込めることによって』
「冗談も大概にしたまえよ」
　そう言ったのは、洋子ちゃんでした。
「神を創る？　ぼく達、人間が？　身の程知らずにも限度がある。いったいどんなバカ面を下げてそんな妄言をのたまっているんだい。こそこそと隠れていないで姿を見せたまえよ」
「彼女の言う通りです！　いつまでも隠れてないで、いい加減に姿を見せやがれです！」
　マンモスさんも立ち上がり、声を上げて、Ｋの正体を問いただしました。
　というのも、マンモスさんはこの声の主が本当に海堂某であるか、それ自体を疑っていたからです。
（そもそも声の正体が海堂本人なのかも証拠がねえです。仮に本人だとすれば、その目的は……。推測ですが、「ユグドラシルがヤバイ事やろうとしているので、それを阻止する為に優秀なギアマスターを探している」といった所でしょうか）
　様々な疑問を頭に浮かべつつ、マンモスさんはKの答えを待ちます。
『私がどこの誰であるかなどはどうでもいい。重要なのは「君達がどこまでやれるか」だ。君達には可能性がある。しかし、それはあくまで可能性に過ぎない』
　しかし、返ってきたＫの答えは、相変わらず本質的な解答を回避したものでした。
「Ｋさ……じゃなくて、シルエットのおじさんも皆の可能性とかが知りたいなら一緒に遊ぼうよー」
　と、瑠樹くんもKに声を投げかけます。
　これには、ろっこんでKを和ませようという目論見もあったのですが――。
『勘違いをしないでほしい。私にとってこれは決して「遊び」などではないのだよ、神の魂をその身に宿した少年よ』
「え……？」
　意味深な言葉を投げ返され、逆に瑠樹くんは虚を突かれてしまいます。
『質問時間は以上だ。君達とギアのさらなる進化を期待している』
　ブツン、と耳障りな音がして、Kの声は聞こえなくなりました。
　やがて、ステージの上には会話についていけなくなったMEIJINがぽつんと取り残され――。
「……ギ、ギアマスターの皆！　どうやらカプセルギアで悪いことをしようとするオトナ達がいるみたいだ！　私はギアを愛する者として奴らと戦うから、皆も力を貸してくれ！」
　もの凄く強引に話をまとめました。
　しかし、日本で（たぶん）ただ一人のプロのギアマスターの人気は凄いもので、
「「「「はーい！！！」」」」
　子供達は元気に返事をして、どうやらイベントは大成功に終わったようです。
「……ねえ、クミ。結局、あのオジさん（？）、なんだったの？」
「さあ？　変なオジサン、じゃない？」
　全てが終わり、そんな言葉を交わす源次くんとクミさん。
　そんな会場を招き猫の覆面を被った少年――猫明神はひっそりと後にします。
「なかなか面白い見世物だったでおじゃる。愛光堂の純正ギア。ユグドラシル製のギア。そしてシルエット。3つを分析・比較すれば面白いデータが取れそうでおじゃる」
　くつくつと笑う猫明神の手にはロックバンド『招き猫屋敷』と、そのシルエットが握られていました。
　こうして、シルエットとの戦いは終わります。
　しかし、残された謎は数多く、ギアマスター達のアソビを守る戦いはまだまだ終わりそうもありませんでした。

【第六話に続く】