猫鳴館、自治会長選任戦～裏寝子温泉我慢大会～皆、熱くなれ｜リアクション

猫鳴館、自治会長選任戦～裏寝子温泉我慢大会～皆、熱くなれ

　運がいいのか悪いのか。シーサイドタウンに住む椎井莉鳥が猫鳴館を用があって訪れた時、選任戦の真っ最中であった。
　別に選任戦に参加しなくても温泉に浸かれ、水着の貸し出しもあるという。他の館生達にあれよあれよという間に地下帝国に放り込まれた莉鳥。まあこんなのもたまにはいいか、と裏寝子温泉に浸かる事にした。

　スレンダーな身体にスクール水着がよく似合う莉鳥。お疲れなのだろうか、温泉に浸かるとほぉ……っと、ちょっと色っぽい声を出した。
（ここ最近疲れ気味だから、気持ちいい）
　何だかお湯に疲れが溶けていくようだ。その心地よさを全身で味わっていた莉鳥。思わずうとうとして……ガクンとお湯に顔を突っ込んだ。
「！」
　びっくりして目が覚めた。危ない危ない。そんな本当に全身で温泉を味わわなくてもいいのよ、私。
　気を取り直して何か飲もうと一旦湯から出た莉鳥。飲み物がたくさん置かれている長机からラムネを取り飲んでいた時、ふと知った顔と目が合った。
「恵御納さん……？」
「椎井さん？」
　それはクラスメイトの恵御納夏朝だった。聞けば選任戦の手伝いをしていると言う。「あそこでやってるんだよ」と夏朝が示した方を見て、莉鳥は仰天した。
（雅樹……？！）
　そこには莉鳥の幼馴染みで元カレの北里雅樹が顔を赤くして湯に浸かっているではないか。彼女は思わずくるりと背を向けた。
「椎井さん？」
「あ……恵御納さん、ずっとここだと大変でしょう？　私が代わるから、お湯に浸かってきたら？」
「……？　ありがとう。じゃあ、少しだけお言葉に甘えるね」
　ちょっと慌てたような莉鳥の雰囲気に夏朝は首を傾げたが、特に言及せず莉鳥に礼を言って温泉に向かう。莉鳥は夏朝に頷き返してからちらりともう１度後ろを見て、声にならない声を上げた。
（あいつ受験生なのに何やってんのよ……！）

＊

（何か椎井さん慌ててたような気がしたけど、どうしたのかな……）
　少し莉鳥の様子が気になりながらも、夏朝はありがたく温泉に浸かっていた。
　赤みを帯びた本格的なお湯。この地下の空間を、猫鳴館生達は自分達の手で整えたという。そのバイタリティーに夏朝は素直に感心した。
　選任戦の参加者達の様子を気にかけながらも、一緒にお湯に浸かっていた猫鳴館生とせっかくの縁だからと言葉を交わす夏朝。話しながら気になる事を聞いた。
（―――『氷ちゅー期』？）
　最近ネズミの姿をよく見るという。それも数匹単位で。そして大量発生の噂が絶えないとか。
「これ以上オンボロになったら住めないよ！　買い置きの食料なんかもやられてるって」
　ぷんすかと怒る猫鳴館生に夏朝は眉根を顰め頷いた。
「大変そうだね。桜花寮はネズミは見ないけど……」
　わー、やっぱりいいなーと声を上げる猫鳴館生とまた色々話しながらも夏朝は思っていた。……猫鳴館、結構大変な状況じゃないのかな？
　その時だった。岩壁の端を何かが通ったのは。
「――ネズミ？」
「え？！　嘘、こんなとこまで！」
　驚く猫鳴館生の声を後ろに聞きながら、夏朝はしっかりと動いていった物影を追う。それは間違いなく参加者達の方に駆けていった。
（お湯に浸かっている場合じゃない！）
　夏朝は急いで温泉から上がった。

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