失われたふわとろ食感を求めて｜リアクション

失われたふわとろ食感を求めて

６　神野美野梨編　最後のピース

また新たな情報がねこったーに上げられた。
これまでに書き込まれていた情報と合わせて、点と点が結ばれた。

・野良猫のトラはかにかまが大好き
・野良猫のトラの腹巻に、伝説のスウィーツに関する豆本が入っている

神野美野梨は、この二つの情報を頼りに、トラの捜索に乗り出した。

「ミステリ研の名にかけて、この謎は絶対に解いてみせるわ」

そう意気込みつつ、スーパーでかにかまを大量に購入し、バッグに詰め込む。

旧市街のどこかにいるという情報では漠然としすぎていて、地道に探すのは非効率的だ。
だから美野梨は、ある作戦に打って出た。

その名も【トラの一本釣り大作戦】。

作戦の内容は至極単純。
道路上に山のようにかにかまを積み、トラが匂いに引き寄せられるのを待つというものである。
こちらから探し歩くのではなく、トラの方から来てもらった方が効率がいいし、確実だ。

美野梨はかにかまの山をセットし、ひたすら待った。

　＊

……しばらくすると、匂いにつられてフガフガと鼻を鳴らしながら、トラ柄の猫がやってきた。
噂通り、腹巻きをしている。あの子がトラに間違いない。
これで作戦の第一段階は完了。
しかし、ここから無闇にトラを手で捕まえようとしても、きっとうまくいかないだろう。トラは好物のかにかまをむしゃむしゃと食べながらも、周囲への警戒も解いていない。

——ここからが美野梨の本領だ。
美野梨は精神を深く集中させ、ろっこん「友との語らい」を発動した。

「にゃあ♪（こんにちは♪）」

ろっこん「友との語らい」は、おもに猫科の生物とコミュニケーションを取ることができる能力だ。
トラは突然喋りかけられたことに驚いていたが、すぐに返事をくれた。

「にゃおん」

——どうやら、こんにちはと返事してくれたようだ。
美野梨は早速本題に入る。

「にゃにゃにゃ、にゃあ。にゃおーん、にゃお。にゃんにゃにゃ？（ちょっとお願いがあるんだけど、キミの腹巻きの中の本を見せてくれないかな？）」

「……にゃ？」

なんで？　と首を傾げるトラ。

「にゃにゃ！　にゃーにゃにゃっにゃ、にゃにゃ〜ん。にゃにゃおん！（あなたの協力が必要なの。気持ちばかりだけど、お礼は用意してあるわ。このかにかまを毎週届けに来てあげる）」

「……にゃん。にゃ！」

……悪くない。乗った！
トラは言って、美野梨の足元に寄ってきた。

「にゃーご（ありがとう）」

美野梨は感謝を述べ、トラの腹巻きの中を探った。
すると、中に小さな豆本があった。

表紙には『門外不出　不破菓子店レシピ集〜ホワホワの巻〜』と記されていた。

美野梨はページをめくり、そのレシピを読み込む。
レシピの最後には、こう書かれていた。

《そして、ここが『ホワホワ』作りのもっとも重要な点なのだが、生地に＿＿＿＿を入れる。そうすることで、通常のホットケーキとはまったく違うふわとろ食感が出るのだ》

「——ああっ、そんなっ！」

美野梨は思わず声を上げた。
何かの拍子に、肝心の部分が破れて読めなくなってしまっていたのだ。

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