失われたふわとろ食感を求めて｜リアクション

失われたふわとろ食感を求めて

３　楡宮遠海編　噂をたよりに……

「ふうん……寝子高の何年も使われていない部室か……」

ねこったー上に突如上がった新情報は、瞬く間にスウィーツ愛好家たちの知るところとなった。
噂が浮上した時から何か行動を起こしたいと考えていた楡宮遠海は、この新情報が上がるや、すぐさま準備を整え、寝子高に向かった。
大好きなスウィーツをお腹いっぱい食べたい――その一心で。

　＊

ガチャ……ギィィ……。
古びた扉を開けると、大仰な音が響き渡る。
廃部室の中には、煤けた空気中を漂う大量のホコリが舞っていた。

「これは……想像以上の荒れっぷりね……」

遠海はマスクとゴム手袋を着用し、これから待ち受ける壮絶な格闘に備える。

「さて、どこから手を着けようかな？」

十畳ほどの空間を見渡す遠海。段ボール箱や本、書類が足元を埋め尽くしている中に、フライパンやお玉などの調理用具もある。

「もしかして、この部屋は元々……調理部とか料理研究部の部室だったのかな」

――思考を巡らせていると、何やら小さな黒い物体や、灰色の小動物が視界の隅で動いた。汚れた場所が大好きな住人たちのようだ。

「今のは見なかったことにしようっと。……それにしても、食材を置きっぱなしにしたりしてないよね……？」

嫌な予感が脳裏をよぎるが、遠海は頭をブンブン振って忘れることにする。

部室を片っ端からひっくり返して捜索していると、いろいろな料理やお菓子のレシピが出てきた。
……しかし、肝心のスウィーツに関する情報は一向に出てこない。

「あてが外れたかなあ……？」

視線の先にあったレシピの余白には、手書きのメモが書き加えられたものもあった。

《ここは焦がさないように弱火で！》《塩は味見しながら足していく！》

など、この場所で料理を作っていた痕跡が残っていて、遠海は在りし日のその部活動の姿を思い浮かべた。

「おいしいものをいっぱい食べられる部活っていいなぁ……」

などと、呑気なことを考えていると、突然視界の上部から「ぬっ！」と黒い物体が降りてきた。

「ひゃうっ！」

突然のことに思わず素っ頓狂な声を上げて、その場に尻もちをついた。

「痛たた……もう、何？」

よく見ると、そこには大きな蜘蛛がいた。天井から糸を垂らして遠海の眼前に現れたようだ。

「な……なんだ、蜘蛛か——ん？」

突然の来訪者の正体がわかりホッとしたのと同時に、右手の指先に違和感を覚えた。
見てみると、そこにはレシピ本に埋まって見つからなかった床下収納の取っ手が――

「――これよっ！　きっとそう！」

思わず叫び、迷わず床下収納の戸を開ける。
そこには、一冊のレシピ本があった。

【『ホワホワ』の謎～不破甘之助先生の味に迫る～】
作・寝子高　甘味研究部一同

「こ、これは……！」

高鳴る鼓動を必死に抑えながら、遠海はその本を手に取り、読んでみた。
その結果……以下の新情報を得ることができた。

・伝説のスウィーツの名前は『ホワホワ』である
・『ホワホワ』を作ったのは、不破甘之助という名の元お菓子職人である。
・かつて寝子高の甘味研究部は『ホワホワ』を作ろうとしたが、不破甘之助はレシピを明かさず、とうとう作ることができなかった。
・『ホワホワ』の製法には何か秘密があるらしい

「不破甘之助……この人が鍵を握っていそうね」

遠海は得た情報をねこったーに書き込み、不破甘之助を探すため部室を後にした。
いつか時間が出来たら、この部屋を綺麗に掃除してあげよう――そう誓いながら。

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