失われたふわとろ食感を求めて｜リアクション

失われたふわとろ食感を求めて

２　虚栄心編　寝子島道中人間惨禍

何やら、巷では『伝説のスウィーツ』とやらの話が盛り上がっているらしい。
しかし、そんなことはどうでもいい。旧市街を歩く虚栄心の脳内にあるのは、都合のいい標的がいないかということだけ。

「私のろっこん……《人間惨禍》の餌食となるカモはどいつだ……？」

周囲に目を光らせていると、寝子島駅付近で言い合いになっている二人を見つけた。

「だから！　私が聞きたいのは伝説のスウィーツのことで――」

「そんなことよりサンマさんの話を聞いてくれ！」

佐藤瀬莉と牛山さんだ。二人の言い合いはまったくの平行線だった。
会話の内容から、心は二人の立場を瞬時に察した。
どうやら、あの少女の方は、伝説のスウィーツの情報を求めているようだ。
それに対してあの中年男性は自分の話したい話をしている。

「……なるほど」

脳内で歯車がカッチリと噛み合うような感覚を味わってから、心は次に自分が取るべき行動を決した。
その結果、あの少女を助けることになるが、それもまた心にとっては興味の埒外のことだ。

心はただ、標的を求めていた。
そして、それがたまたまあの男だった。
……それだけのこと。

心は足早に牛山さんに接近し、そして牛山さんがこちらを見たその刹那——

「跪け——《人間惨禍》！　お前はただの人間だ！」

と、叫んだ。すると……

「ふにゃあ……？」

気の抜けた声とともに牛山さんの体から力が抜け、その場にへたり込んでしまった。

「えっ……？　牛山さん……どうしたんですか？」

驚愕している少女・佐藤瀬莉に、心はぶっきらぼうに告げた。

「ふん。私の目的は果たしたのでこれで去る。……去った後のことなど興味はないが、今ならその伝説のスウィーツとやらについて答えてくれるんじゃないか？」

「えっ……でも……？」

「ではな」

瀬莉の返事を待たず、心は踵を返し、その場を後にした。

「な……なんだったんだろう……？」

瀬莉は呆然としたまま心を見送った。

「う、うーん……なんだか力が出ないよ……歳ってことかな？　わはは……」

牛山さんはぐったりしているが、笑う余力は残っているようだった。
ひとまず重大な事態にはなっていないようだと、瀬莉はほっとした。

そこからは話はすんなりと進んだ。瀬莉の質問に牛山さんはぐったりしつつも丁寧に答えてくれたのだ。
少し元気がないくらいがちょうどいいと言うことなのだろうか……。
ともあれ、牛山さんが教えてくれた情報は以下のようなものだった。

・寝子高の何年も使われていない部室に、伝説のスウィーツの情報がありそう
・元お菓子職人の不破甘之助さんなら何か知っているかもしれない
・野良猫のトラはかにかまが大好き

なにやら関係のなさそうな情報も混じっているが、瀬莉はこの情報をねこったーに投稿した。
話しているうちに立って歩けるようにはなった牛山さんを見送って、瀬莉は次なる調査へと向かった。

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