ころころ寝子島すごろく｜リアクション

ころころ寝子島すごろく

●ゲーマーとして

　仙藤蒼は寝子島駅の前で、巨大なサークルが地面に描かれているのに気づいた。空中には『スタート』という文字。手に握られているのは猫の数で表されたサイコロ。そして遠くに見えるマス目らしき表示。
　これらから１つの結論に行き着く。

「寝子島全体がすごろくになってる……？」

　わくわくする気持ちを抱えて、記念すべき第一投を振った。出た目に従って着いた先は寝子島映画村。そこで町娘の格好に着替えて記念撮影をした。

「ふふ、我ながらかわいい！」

　出来上がった写真を眺めながら、そう言った。今度来たときは別の衣装を着てみるのもいいかもしれない。

「さーて、次はどこかな」

　転がったサイコロは４を示して止まった。
　そこへ向かうと、寝子電スタジアムでちょうどサッカーの試合中だった。

「今サッカーの試合やってるのね」

　よく見るとかなりの接戦で白熱した展開になっている。

「これは……ちょっとだけ観てみようかな」

　ちょっとだけと思ったが、すごろくをしていたことも忘れるほどすっかり熱中して応援していた。

「は～……すごい試合だったなぁ……」

　ハラハラドキドキの試合を心行くまで観戦した。最後まで予想のつかない試合で、蒼は夢中で見ていた。
　スタジアムを離れて、歩き出した頃。ふとすごろくをしていたことを思い出して、サイコロを振った。
　次に向かった先は寝子島街道の交番近くだった。するとお巡りさんが怖い顔を浮かべながら蒼に迫ってくる。

（な、なんでそんな怖い顔してるの？　私、もしかして何かの犯人に間違えられてる……？）

　そう思って、とっさに後ずさる。それがいけなかったのか、警官が蒼に向かって走り出す。反射的に蒼も駆けだした。

「私は怪しい者じゃないよっ！」

　そう言いつつも警官から逃げてしまう。いきなり怖い顔で追いかけられて、すんなり止まるのもなかなか難しい。
　結局さんざん追いかけられて、ついに捕まった。
　それから誤解が解けるまでだいぶ時間がかかり、なんとか解放されたころには日が暮れようとしていた。

「とんだ目にあったわ……次の目はいいのが出ますようにっ！」

　そう願って振ったサイコロは５。向かった先は星ヶ丘の海辺。そこにおしゃれなカフェが見えた。

「とにかくおなか空いたし、のども渇いた……」

　カランカランという音を立てながら、店内に入る。そこでプリンアラモードとコーヒーを注文する。口に運ぶと、程よいプリンの甘さとコーヒーの酸味がマッチする。
　店内から海を眺めつつ、それらを楽しみながら一息ついた。会計を済ませて外に出るとサイコロを振った。数字は１だったが、進んだ先で何かいいことが起こりそうな予感がした。

（なんとなく……ね）

　そして続けてもう１回振る。このタイミングで６が出て、一気にゴールに到着した。

「あがったー！　高級レストランでお食事！　やったー！」

　しかし喜びはすぐ懸念に変わった。

「でもこういうところってドレスコードとか……それに値段も……」

　気になって調べようとスマホを取り出すと、どうやら少し前に何かの通知が来ていたようだ。
　その内容を確かめると以前応募した懸賞の結果連絡だった。

「うそ……ここの招待券が当たっちゃった！？」

　これは僥倖。
　蒼は先ほどまで抱いていた憂いを吹き飛ばし、高級レストランを満喫した。