ころころ寝子島すごろく｜リアクション

ころころ寝子島すごろく

●新たな景色

　シオ・レイゼルオークは寝子島がすごろくになっている光景に目を丸くする。手には猫の数で表されたサイコロがあり、これに従ってマス目を進むようだ。驚きつつも、シオは視点を変えてみた。

　普段の生活を振り返ると、毎日同じような道や場所しか通らないので、これはいろいろな場所を知るいい機会なのではと。

「面白そうだし、運動にもなるね」

　スタート地点は寝子島駅前。
　普段じっくり見ることもないので、のんびりと眺める。

「こじんまりしてていいよね。レトロかわいい」

　そうして駅の姿を楽しみつつ、第一投を振る。
　出目は１。このマスでは筋トレをするという指示があった。

（う、外で腕立てとスクワットは難易度が高いっ）

　そこでバス待ちをしながら暇つぶしをしてるんですよ、という空気を醸し出すように体の使い方を工夫する。なんとか指定の回数をこなして次のサイコロを振る。ふたたび１が出たので、１マス進むと寝子島神社に到着した。折角なのでお参りをしようと鳥居をくぐり、正面の建物へ。

「本日も皆様が健やかで幸せでありますように」

　そう願いを込めて手を合わせた。
　本殿や狛猫の像を目にしつつ、綺麗な景色と澄んだ空気を楽しむ。すると神様に届いたのか、一気にマスを進んだ。
　しかし進んだ先でタライが脈絡なく降ってきた。

「た、タライがー！」

　咄嗟によけたが、頭にちょっとかすった。

「痛い……頭は危ないよ。具体的にいうと、おばかが加速しちゃうよ」

　タライの当たったところをさすりながら、ため息をつく。気を取り直してサイコロを振ると１だった。移動したマスでは、サイコロで１が出ると一気に進めるようだ。

（飴と鞭かな？　でも１が出たら一気に進んじゃう？　いやまさかそんなうまいことが……）

　そんなことを思いながらサイコロを振ると、１が出た。

（出たーっ！？）

　寝子電に乗るとゆっくりと進み始めた。普段乗らない電車に揺られながらシオは思う。

（サイコロはここまで出目が１が連続。順調に進んでるのに落ち着かない）
（出発する前は全マス止まって……みたいなことを考えてたけど……）

　軽くホラーな状況が浮かんで、内心震えていた。穏やかでない心境のまま、目的の場所に到着した。電車を降りて景色を見ると、海の青が輝いていた。

（海、見て落ち着こうかな）

　お茶もお酒（期間限定缶チューハイ）も買ってきて、なんとなく選んだ場所に座って飲む。ただ何事もなく過ぎる時間。気持ちを落ち着けるには十分だった。

「この先、戻りマスも無いだろうし、ゴール出来るよね？」

　その願いを込めてサイコロを振る。今度こそ１以外の目をだし、無事にゴールした。

「なんだろう、すごい安心感」

　シオはホッと肩をなでおろした。

「全部のマスに止まるのも興味あったのだけど、反面ゴールまで辿りつかないんじゃって急に不安になって……。ちょっと駆け足しちゃったけど、杞憂だったね」

　とっても楽しくて、ドキドキもする面白いすごろくだった。ここまでの道のりを振り返りながら、シオはそう思った。

「レストランはどうしようかな、さっき海で飲み物飲んだし、のんびり引き返しお散歩も良いし、まずはちょっとこの辺をプラプラしようかな？」

　通り過ぎた景色を楽しむように、シオはゆっくりと歩き出した。

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