ころころ寝子島すごろく｜リアクション

ころころ寝子島すごろく

●感謝の気持ち

　八神修は本屋を出たら、いつのまにか神魂の影響に巻き込まれていた。島全体がすごろくのようになり、手には猫の数で表したサイコロが握られている。

「島全体が盤面としたイベントだな。折角だ、楽しむことにしよう」

　不敵な笑みを浮かべて１回目のサイコロを振る。出た目は２。それに従って進むと寝子島神社に着いた。神社にはたくさんの猫たちがいた。修は彼らとふれあってほっこりする。

　ニャーン。

　どこからか、力強くも優しい鳴き声が響いた。気が付いたら寝子島中学校の近くまで移動している。

「さっきの声は、お告げめいた神様の声だったのかもな」

　この事態を穏やかに歓迎し、移動先にいる猫たちとしばらく遊んだ。次のサイコロを振って、目の数だけ移動すると足元に違和感があった。踏んだ瞬間、缶だと気づいたが時すでに遅し。

「転んだあっ！」

　するっと後ろに倒れる体。それに合わせて宙に浮く自分自身と缶。

「飛んだあっ！」

　浮いている時間は妙に長く感じられた。
　それでもいつかは落ちるもので、漫画のような１コマができあがった。

（いてて……念のため診てもらうとしよう）

　手首を軽く固定してゴールとは逆方向へ進み、病院へ。診察の結果、擦り傷と軽い打撲だった。このくらいなら問題はないだろう。修はすごろくに復帰すると、さっそくサイコロを振った。
　たどり着いたマスでは海に向かって愛を叫べ、という指示があった。

（なんだ、この指示は……大好きといえばあおいだが……）

　七夜あおいの姿を思い浮かべると、思わず赤面してしまう。

（これ……必ずやらないと……あ、ダメなんだな……）

　これは覆せないとわかると、必死に頭をひねる。

（あおいを困らせたくない。居ない所でもそれは同じことだ）

　だからといって嘘はつきたくない。そして修は閃いた。

「カーキー、カエサル、カール……ミルク、ブラック、ブルー……」

　この名前は、修が飼っている動物たちの名前だ。１匹も欠けることなく、全員のことを呼ぶ。

「みんな、愛してるぞ！　おいしいオヤツ買って帰るからなーっ！」

　ペット達から時には癒しをもらい、時には勇気をくれる大切な家族だ。叫んだ効果でさらに２マス進んだ。すると見慣れた影があった。

「そこにいたのか、あおい！？」
「修君！？」

　どうやら、あおいもすごろくに参加していたようだ。この距離だとさっきの叫びも聞こえていたかもしれない。

（叫ばなくて良かった……まじ俺ナイス）

　動揺を悟られまいといつもの爽やか笑顔で応じる。

「折角だし、一緒に行かないか？」
「うん！」

　あおいの進んできた道のり、その途中で起こったことを聞きながら、修も自分の体験を語った。そんな風に盛り上がりながら、ついにゴールにたどり着いた。

「ゴール！」
「楽しかったな」
「うん！」

　あおいの返事に修は自然と笑みがこぼれる。

「でも、もう少し遊びたかった……」
「それなら、さ」
「ん？」
「実は、ちょうどランチチケットがあるんだ」

　ゴール地点は星ヶ丘の高級レストラン。修は鞄からこのレストランのランチチケットを取り出した。

「有効期限があるから使わないともったいないし、手伝ってくれるとありがたいよ」

　あおいは嬉しそうに小さく頷いた。
　その可愛らしい表情に修は、神様に、あおいに感謝した。

このページにイラストを設定する