秋の夜長に……｜リアクション

秋の夜長に……

●創造する芸術家の夜長

「さて、始めるか」
　旅鴉月詠はレジン（合成樹脂）クラフトセットと懐中時計のレジン枠を用意し始めた。
　金の懐中時計にするのはすぐ決まったが、埋め込むパーツや空枠に流し込むレジンをどうすべきかと悩む。
　秋らしいものにしてみようかと考えるが、それらしいものが思い付かない。
「今夜は三日月か。それをモチーフにしよう」
　窓から空を見上げると三日月が出ていて、その周囲には星が輝いていた。
　イメージが湧いてきたので、三日月と星型のパーツで秋の空らしいものを作ることにした。
「そうと決まれば、あとは作るのみ」
　その前に、と動画撮影の準備を。自分の声が入らないよう、慎重に行う。

　懐中時計の底に無色のレジンを入れ、角に液を行き渡らせるため楊枝でならしていく。
（最初が肝心だからな）
　ならし終えるとピンセットを使い三日月のパーツを入れ、黄色のレジンを流し込む。
　それが終わると周囲に星のパーツを配置し、パーツを埋め込んだ部分を青色のレジンを慎重に流し入れる。
（レジンを使ったアクセサリーは、一気に作業しないと液状レジンが固まって駄目になる）
　ＵＶランプは３～５分、太陽光は３０分～１時間ほどでレジンが固まる。
　それを知っているので、やめ時は完成してからだと丁寧かつ、根気よく作業を進めていく。
　そういった作業を進めたこともあり、懐中時計のレジンアクセサリーの完成は予定より早く終わった。

「意外と早く終わったな」
　休憩しよう、と動画撮影をオフに。
　最近では、さきほど完成したようなレジンを使ったデコレーション。
　銀粘土を使ったシルバーアクセサリーやイミテーションジュエリー。
　そういった見て楽しく、飾って美しく、身に着けてかっこよく、といったものを作っている。
　これらはネコミケに出品するもので、メイドがよこした資料を基に作成したアニメグッズだが作品を知らなければ綺麗なアクセサリーだ。
　材料も作成時間も手間はかかる、原価もそれなりにかかっている。
　ネコミケ等で売れるのは一瞬だけど、大事にしてもらえるならそれでいい。
　手間暇かけて作ったアクセサリー買ってくれる人がいる。それだけで月詠は嬉しい。
　彼女が動画を撮影しているのは、制作風景を配信してハンドメイドに興味をもってもらうためだ。
「できねーよ？　なんてコメントがあったな」
　そういった意見に関しては、まあまあ文句言わず原画から始めてみなさいという感じだ。
　動画でレジンアクセサリーに興味を持った。実際に作ってみた、というコメントを見た時は嬉しかった。
　レジンアクセサリーの材料は１００均で買えるし、時間はかかるが太陽光で固まるのでＵＶランプを無理して買うことはない。
　凝ったものでなければ、初心者でも作れる。

「さて、次は何をしようか」
　同じ作品のアレンジにするか、次の作品に移るか、それとも全く違うものを作ってみるか。
　月詠の芸術は秋に留まらず。１年３６５日、といっても過言ではない。
　秋の夜長に、時間の許す限り破壊と創作を続けるのも悪くない。
　その前に、と休憩を。
　お気に入りの音楽を再生し、紅茶を淹れて、様々な形のクッキーを取り、資料を眺めてブレークタイム。
「さっきは月と星をモチーフにしたから、今度は秋の植物でレジンアクセサリーを作ってみようかな」
　今度はエポキシレジンを使い、本格的なアクセサリーを作ってみようと思い立った。
　星型のクッキーを食べ、紅茶を一口飲んだ後、月詠の目と頭は次の創造の完成図のカタチを作っていた。
　制作時間はまだあると先程とは異なる枠とパーツを使い、月詠は新しいレジンアクセサリーを作り始めた。

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